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その資金調達は本当に必要か?方向性の違いで心を壊さないように


こんにちは。talikiファンド代表パートナーの中村です。
talikiファンドにて私たちがお会いする起業家の中には、まだ法人を作られていない方や、外部からの資金調達が初めてという方もいらっしゃいます。

そういう方と投資検討の面談をさせていただく中で、私たちは「そもそもなぜ調達という手段を選んだのか、それは本当に必要なのか」というのをよくお聞きしています。

なぜ私たちがそのようなコミュニケーションを取るのかというお話を前回は「ベンチャービジネスのあり方」と「検証した方が得だよね」という側面からお伝えしました。
後編では、「起業家のメンタルヘルス」について書いていきます。

起業家のメンタルヘルス

前編では、ベンチャーであっても今や色んな事業のあり方があってよくて、従来の資本主義ルールに縛られた結果、課題解決が歪んだり社会課題をむしろ生んだりするのは避けたいというお話と、資金使途への解像度を高めるためにも投資家への交渉力を持つためにも初期フェーズは検証を先に進めるとオトク、というお話をしました。
後編では、起業家が心を壊してしまう「方向性ギャップ」についてお話できればと思います。

私自身は起業して3年半になります。人生山あり谷ありとはいうものの、また他の起業家に比べたらハードシングスが少なめな私にとっても、起業家人生はジェットコースターのようでした。
理不尽なこと、運が悪いこと、悪意に晒されること、自分の実力不足なこと、要因は何であれ苦しいことがたくさんあります。

こんなのは降りかかってくるものなので回避しようがないのも事実ですが、その中でも意識して避けたいことは「求められていることと、目指していることが違う」ケースかもしれません。
例えば一生懸命事業プランを考えたけど実は顧客に求められていなかったとか、メンバーが同じゴールを向いていなくて要求に応えられなかったとか、そういう話です。それらは、顧客ニーズに合わせて事業をブラッシュアップしていくとか、同じゴールを向くように話し合うとか(サヨナラするとか)で解決していくことが多いかと思います。

一方でこのような方向性の違いにおいて、完全に不可逆ではないけれどもかなり後戻りやその後の改善がしづらいのが「投資家が求めていることと、会社や起業家自身が目指していることにおける相違」です。

調達のタイミングではお金が必要なので投資家に都合の良い情報を優先的にお話しすると思います。直接的に投資家に言われてなかったとしても、世間を見渡してみると規模拡大・成長スピード重視の価値基準が当たり前のように見えるかもしれません。そのベンチャービジネスのあり方については前編を読んでいただければと思うのですが、起業家個人としても本当は「100億とかそういう大きな規模にならなくても、メンバーを大事にできて楽しく事業運営できればそれでいい」だったりとか「自分たちが本来必要だと思ってることをやるには、成長率をあげることを後回しにしなくてはいけない」という場合もあると思います。

なので「そもそもなぜ調達という手段を選んだのか、それは本当に必要なのか」という冒頭の問いへの答えを探るために、
「〇〇さんのお話を伺ってると、拡大よりも自分のペースでお客さんに喜ばれることが嬉しいように見えますが、外部から資金を入れて加速するのはどういう意図があるんでしょうか?」とか
「VCを入れるとどうしてもExitを目指す形になりますが、それは違和感ないですか?」と聞く場合もあります。

そのような問いに対して「大きくなりたいんです」というケースもあれば(というかスタートアップ界隈ではそれが多数派で、だからVCも出資するのだけど)、「デカくなること自体が目標ではないが、自分たちの理想に近づく手段としてデカくなる必要がある」みたいケースもあります。弊ファンド1号案件の工藤くんのように、事業運営の中で自然とそういう方向性に変わっていくパターンもたくさんあります。
そのようなケースはもちろん喜んでご一緒したいですし、そうでなくても私たちは前編で述べたように多様なベンチャービジネスがあっていいと思っているので、Exitを目指さないケースに合わせた投資方法も用意しています。

が、自分に嘘をつく形で投資家とコミュニケーションしていたり、「界隈がIPOって言ってるから、資金調達ニュースばかりが目に入ってくるから、それ以外の生き延びる方法はないのだ」と考えている場合は起業家が板挟みになり苦しむことになります。そうなると、そもそも方向性が違うVCには相談することさえも状況によっては難しいかと思います。

なので、少しでも違和感があれば「どこまで大きくしたいんだっけ?VCからの調達って(他社と比べず自社だけで考えると)どんな意味があったんだっけ?」と一旦深呼吸をしてフラットに考えて欲しいのです。いまの時代、VCからの調達以外にも色んな資金調達方法がありますし、資本主義や投資家のエゴに付き合って心を壊して事業が出来なくなってしまったら本末転倒です。

フラットに考えた上でなお、自分の目指すものがVCの求めるものと合致するのだと判断すれば、よりVC側としても全力で応援させていただくことが出来るので、考えてみて悪いことはないのです。

ちなみに心を壊すことが悪い、心を壊す起業家に出資したくない、という意味では全くありません。投資面談する中で、過去に精神疾患やそれに準ずるものを体験した方に何度かお会いしましたが、その過去を理由にお断りすることはまずありません。むしろその過去があったからこそのサービスや組織への考え方があると思っています。
一方で、起業によって心を壊した方にもたくさんお会いました。だからこそ自分が出会った起業家の方々には、出資しようとしまいと追い詰めることだけはしたくないし、同じ船に乗るならなおさら、自分が丁寧に意思疎通しなかったせいで起業家の方が苦しむのは避けたい。まあ、これも私のエゴなのかもしれないですが…。

続けるためのセーフティーネット

ちょっと話は変わりますが、とはいえ冒頭にも述べたように起業家は方向性の違い以外にも様々な苦しみと出会うと思います。
起業家はこれらとどう付き合っていけばいいのか、というのを私自身ずっと考えています。

私たちは投資基準に「続けられること」を掲げています。これはどちらかというと、飽きてやめちゃうとか面倒でやめちゃう性質のある人は投資対象ではない、という意味です。
ただ、苦しくてやめちゃう、はちょっと訳が違うと思っていて、本当はやり続けたいのに苦しみの方が圧倒的に大きくなり断念せざるを得ないことがあると思います。私自身もオフィスでパソコンを開いたらなぜか全く手が動かなくなってしまうとか、朝起きて仕事をしようとすると吐き気が止まらなくなるとか、そういうちょっと辛い時期がありました。起業のお手伝いをした子から深夜に「死にたい」と連絡が来たことも何度もありました。
今でこそ私も色んな方に支えられていますが、そこまで辿り着くのが運ゲーだとするとあまりにも酷すぎるし、日本のベンチャーエコシステムにとって損だなと思っています。

「続ければいつか成功する」のであれば、続けられない理由を少しでも和らげるお手伝いがしたい。そう思い「起業家や組織の心の問題にアプローチすること」「対話の中で人生の方向づけをすること」が出来るhalという子会社を2021年4月に設立しました。
詳しくは代表の山田瑠人との対談をご覧いただければと思うのですが、今回のノートに関連する私の考えを引用しておきます。

例えば学生起業など若くして起業した人は、経験もなくいきなりビジネスの競争環境に飛び込むことになります。プロの経営者との競争に投げ出されると、「どうしてこんなに上手くいかないんだろう」「どうしてこんなに知識がないんだろう」といった自分を責める感情を持ってしまいがちです。加えて私たちが支援している社会起業家たちは、極めて重い「社会課題解決」というテーマも背負わなければなりません。起業家としての痛みと社会課題に向き合う痛みを同時に背負う状態って、精神的負担が大きすぎるんです。taliki創業当初は、起業家のメンタルケアに関しても私が積極的に対応していたのですが、悩みを聞く私の方まで辛くなってしまって。それで、表向きは「メンタルケアも対応します」といったメッセージを発信することはやめてしまったんです。ただメンタルケアの部分で対応する手段を持っていないことがずっと心残りになっていたんですが、今回瑠人から「対話の会社をやりたい」と相談を受け「必要だと思っていたことができる」と思い、より密な連携をするために子会社としての設立を決めました。
(中略)
組織内やステークホルダーのみとのコミュニケーションと違って、halからコーチングを受けることで、評価などと無関係かつ客観的な第三者の視点から個々人が自分の状態を把握することが出来ます。talikiのメンバー3人で試験的にhalのメンバーからコーチングを受けたことがあるのですが、第三者であるhalのコーチからの問いかけに返答をする形で、自分の状態をフラットに見つめて各々の会社の中で目指すものに気づくことができたと思っていて。スタートアップではメンバー全員が自走してくれないと困るような環境なので、内部で教えたり指摘したりすることにたくさん時間を使える訳ではないんですよね。だからこそ、対話を通して自分で気づいてもらうというのがとても大事だと感じました。

talikiとしては、今後halと連携して支援先・投資先となるシードからシリーズAに向けたコーチングパッケージを導入し、起業家や組織のセーフティーネットとなると共に、ポテンシャルを引き出すことを目指しています。

まとめ

そんな訳で、前編も含めたまとめです。
「そもそもなぜ調達という手段を選んだのか、それは本当に必要なのか」という問いを投げる理由は
①ベンチャービジネスの多様なあり方の模索
②起業家にとって有利な選択肢の模索
③方向性の違いによって苦しまなくて済むようなスタンスの模索

でした。

上記を読んで、まずは相談してみたい!という方はぜひお問い合わせフォームもしくはMessengerよりご連絡お待ちしております^^
(TwitterのDMは資料添付できないのと私が見逃すので推奨してません。。)

noteで色んな方にtalikiについて知ってもらい交流できるのが嬉しくて書き続けているのですが、慢性的なネタ切れに悩まされています。何かテーマや知りたいことなどあればお気軽にコメントなどください!

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