見出し画像

その資金調達は本当に必要か?ベンチャービジネスのあり方とシード期の検証について

こんにちは。ネタ切れにより以前の記事からかなり時間が経ってしまいましたが舞い戻ってきました。talikiファンド代表パートナーの中村です。
talikiファンドにて私たちがお会いする起業家の中には、まだ法人を作られていない方や、外部からの資金調達が初めてという方もいらっしゃいます。

そういう方と投資検討の面談をさせていただく中で、私たちは「そもそもなぜ調達という手段を選んだのか、それは本当に必要なのか」というのをよくお聞きしています。


VCはビジネスモデルとして投資した企業がどんどんIPOしてくれればそれが一番儲かるし、その方向性に誘導することも正直ポジショントークで出来てしまう部分があります。
IPOするためにはマーケットや運などコントローラブルではない外部要因がたくさんある(らしい)ので、誘導したとしても可能な訳ではないのですが、それを差し引いても「IPOしない」「調達しない」という選択肢を伝えるメリットは私たちには特にありません。

そんな中で、なぜ私たちがそのようなコミュニケーションを取るのかというお話を「ベンチャービジネスのあり方」と「検証した方が得だよね」と「起業家のメンタルヘルス」という側面からお伝えしたいと思います。
長くなりすぎるので前編で「ベンチャービジネスのあり方」と「検証した方が得だよね」について、後編で「起業家のメンタルヘルス」について書いていきます。

(と、その前に一点だけ強調させて欲しいことがあります。この記事からかなり「アンチ成長」の論調を感じる方がいるかと思います。
が、わたし及びtalikiは「伸ばせるんだったら、伸ばすべきだったら伸ばしたらええし、伸びないのだったら、伸ばすべきではないのであれば、伸ばさんでええ」というスタンスです。この記事では「伸びないのだったら、伸ばすべきではないのであれば」のケースをメインで取り扱っています。では本題へどうぞ)

ベンチャービジネスのあり方

ベンチャービジネスのあり方という話をする上で、実は欠かせないのが社会課題と、それを引き起こさないようにする持続可能という概念です。

なぜなら多くの社会課題は、資本を増殖するための事業と、そのために持続可能性を大きく破壊するほどの地球資源や人的資源を搾取する形で生産性を向上してきたことから始まっているからです。

2021年に入って、ことさらに「SDGs」や「サステイナブル」のワードを耳にするようになりました。書店に行けばSDGsの本が平積みになっていて、ファッション誌の表紙には「SDGs、知らないじゃ済まされない」なんて言葉が書かれています(正直、あんまり好きじゃない煽り方です)。

まず足並みを揃えるために、そんな風に社会課題解決と持続可能な社会の追求が叫ばれるようになった経済の歴史と、それらにまつわる印象的なエピソードをかいつまんでみましょう。(流し読みOK)

18世紀から産業革命から始まり、20世紀半ばにはエネルギー革命が起きました。一方でほぼ同時期に日本では公害問題が発生し、CSRという企業の経済活動における社会的責任が謳われはじめました。
1997年に気候変動枠組条約に基づき京都議定書が策定され、2000年にはMDGsという主に途上国向けの開発目標が掲げられました。
2014年には女子教育の重要性を訴えたマララさんがノーベル平和賞を受賞し、翌年新たに先進国も含む持続可能な経済活動を目的とした開発目標であるSDGsが掲げられ、2018年にはグレタさんが気候変動への構造的なアプローチを訴え始めています。
直近でいうと2020年には経済思想学者である斎藤幸平さんによる「人新世の『資本論』」(集英社新書)が出版され、「今のままの資本主義を続けていては、気候変動に対する目標が達成される見込みはなく自分たちの豊かな生活もなくなる」というようなメッセージで注目を浴びました。
現在ではグローバル企業がサステナブルなブランドに注力したり、ハーバードビジネススクールではレベッカ・ヘンダーソンさんによる「持続可能な事業はむしろそれを意識しない企業よりも高いパフォーマンスをあげる」という趣旨の講義が人気となったりしています。


そんな訳で「資源の搾取を鑑みない経済成長神話」みたいなものが崩れ、自分たちが生んできた社会課題を解決するビジネスや、持続可能な社会であるための新しいビジネスのやり方、新しい生活の在り方がまさに現代、模索されているのです。
(日本はだいぶ遅れをとっている印象ですが、二年以内にはほぼ全員啓蒙されるぐらいのペースで、私が想定していたよりずっと早く世間の意識が変わっているように思います)

そんな風に、「社会的責任」「持続可能」が重視されつつある昨今、私たちのベースである京都はとても面白い街です。
創業100年を超える企業が世界で最も多い国である日本でも、10年以上続く会社は全開業数のうち1/4ほどと言われていますが、京都は創業100年以上の企業の割合が最も高い都道府県でありかつ1000年以上続く企業が世界で一番多く存在する地でもあります。
毎日の株価の値動きに一喜一憂する現代人の想像を遥かに超える長さなのですが、時代が変わり、戦争が始まって終わり、IT革命がありパンデミックがあってなお、姿形を変えつつ必要とされる商売も確かにあるということです。

前置きがとっても長くなりましたがこのような背景を踏まえ、私たちはVCという資本主義のど真ん中産業にいながらも「成長第一だった資本主義のコンセプトはむしろ社会課題の要因となりうるし、短期的な成長以外にもみんなが豊かになれる事業のあり方って色々あるよネ、たとえそれがベンチャービジネスであっても投資家ともども多様なあり方を模索していくべきだよネ」と考えています。

冒頭の「そもそもなぜ調達という手段を選んだのか、それは本当に必要なのか」という問いを上記の議論に沿って言い換えると、
「社会課題解決をしたいと考えてあなたが選んだマーケットは、規模拡大を優先するとむしろ社会課題を生み出すことになります。市場成長率以上の規模拡大は目的に反しませんか?」(よくサステナブルな衣食住に関するD2Cを展開したい起業家に問いかけてます)とか、
「あなたの事業プランには投資家を納得させるための成長率や売上目標が書かれていますが、本当に解決したい課題の当事者に届けることを優先するなら、この数値目標やマーケットを追わない方がいいんじゃないですか?」(ヘルスケア分野とか)
みたいな感じです。

そんな問いに対して、納得度100%の回答をいただいてこちらが勉強させていただくこともあれば、「投資家にはこう言わないといけないと思っていた」と目的と手段が逆転しているケースもあります。
それだと短期的には問題ないですが本来の目的を犠牲にしているので、結局続かない可能性が高く”三方悪し”になってしまう。
なので、この問いで私たちが勝手に天井を設定してしまわないように注意しつつ、あらかじめお互いの状況やスタンスを明確にした上で、起業家も投資家もステークホルダーも社会も一番ハッピーな選択肢を選びたいと思っています。


検証した方が得だよね

また、ちょっと毛色の違う話になりますが、上記のような質問に答えるには検証不足、データ不足、というケースもシード期だと多く見受けられます。そんな時は資金調達にまわって疲弊するよりも、ユーザーと向き合ってサービス検証した方が意外と近道だったりします。

色んなプランをよくよく見ていると、サービス検証にお金がかかると思い込んでいても実はお金かけずに検証する方法が割とあったりします。

以前taliki社では「事業プランのある起業家に10万円を渡して、その費用を元手に事業を伸ばしてもらおう」というインキュベーションプログラムを運営したことがあります。
面白かったのは、複数の起業家の方を比べてみた時に使った金額の大小は検証進捗とそんなに関係がなかったことです。金額もケース数もそんなに多くはないのでアレですが、10万きっちり使って事業を進めた起業家もいれば、1円も使わずにユーザー数を鬼のように伸ばした起業家もいました。
要は「初期フェーズであればお金がなくても求める検証結果にコミットできる場合が多い」ということです。実際、無料でハイクオリティなツールに溢れている今、それらを組み合わせてMVPの検証をすることは全然難しくないのです。裏を返せば、いつだって事業の価値にツールが追従していくのであり、事業の価値自体がなければどんなにピカピカのツールを開発しても意味がないとも言えます。
冷静に考えれば当たり前なのですが、調達しようといざ思った起業家は、お金がなくては、お金さえあれば、となぜか思いがちなのです(私もそうでした)。

低価格でさっさと検証してしまうことによって、投資家への交渉力を持つことができるのも大きなメリットの1つです。検証が進んでいればいるほどバリュエーションを高く設定でき調達額も増やせますし、事業の説得力が上がるため投資確度も上がります。
なんなら無料で検証することで調達がそもそも必要なくなってしまい、冒頭の「そもそもなぜ調達という手段を選んだのか、それは本当に必要なのか」という問いが勝手に解決されることさえあります。

(宣伝:とはいえ私みたいに、最初は「検証どうやるの?どんな方法があるの?」「思うように進まない…」みたいなことがあると思います。そんな方にオススメのプログラム(無料)を開催します。投資家への交渉力を持つ、あるいは投資家の力を借りずに事業成長させることを目標に、ぜひ参加してみてください)

以上で、前編の「ベンチャービジネスのあり方」と「検証した方が得だよね」から見る、調達の必要性でした。

上記を読んで、まずは相談してみたい!という方はぜひお問い合わせフォームもしくはMessengerよりご連絡お待ちしております^^
(TwitterのDMは資料添付できないのと私が見逃すので推奨してません。。)


最後に宣伝もう1つ。「資本主義と社会課題について」と、「てか社会課題解決ってなんなの?社会起業家ってなんなの?」というお話について、社会起業家の方と一緒に考えるオンラインイベントを5/14(金)19:00から行います。ご興味あればぜひ聞きにきてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?