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社会課題解決のために特殊な投資ファンドを立ち上げた話

この度、talikiはファンドを立ち上げました。

趣旨概要についてはリリースをご覧いただければと思うですが、ざっくりいうとエクイティへの出資と、株式を一切取得しないプロフィットシェアによる出資の両方を選択肢として用意しているファンドです。
また、VCファンドとしては珍しくLP(と呼ばれる、ファンドへの出資者。以下パートナー)のリソースの活用もサポート内容として入っています。

今回、なぜこのようなことに挑戦したのかをシェアしようと思い筆を取りましたが、気付いたら懺悔と決意の記事になっていました。大きなテーマとして「出資リターンについてのスキームあれこれ」「社会課題解決への資金提供あれこれ」について扱っています。

ファンドという形に至るまで

たくさんの方のご協力により華々しく2021年3月にファンドに関する記者会見とリリースを行ったのですが、当初は設立時の2020年に行う気持ちでいました。繁忙期と年末年始を挟み、翌年の2月の予定となり、またそれが緊急事態宣言などの事情により延期され結果として3月に決行されました。
延期を重ねたこともあり、リリースできたらあれをしようこれをしようと、リリースしたら突然世界が変わるかのような期待感を破裂寸前の風船のように膨らませていました。ただ、実際想像していた達成感をなぜか感じず、私はその後2週間悔しさからくる絶望と疲労を味わっていました。

なぜ、の話の前に今日までに至った経緯をつらつらと綴りたいと思います。

まず、出資の構想自体は創業時からありました。
「社会課題を事業によって解決することをエンパワーする」というtalikiの創設目的を考えると、当然プレイヤーに対して、ファイナンシャルなサポートをしていくことも視野に入れなくてはいけません。
ビジネスの基本的な知識や実践の場の提供、販路拡大、営業支援、認知度向上、コミュニティによる集合知とセーフティネットの形成など、社会起業家たちを応援する手段をいくつかテーブルに並べてきましたが、どうしても彼らが事業を推進する上で外部からの大きなお金が必要となることがありました。
ただ私たちも彼らと同様にベンチャーであり、彼らに資金提供できるほどの資本力がなかったためどこか別の資本を接続しなくてはなりません。

そこから、今回のような少し特殊な形のファンドに落ち着くまでいくつか寄り道をしてきました。
まず従来のいわゆるVCファンドは、未公開株式への出資という手法の特性により出口戦略(売却、上場など)を必要とします。
出口戦略とはいうもののIPOや大型のM&Aをしない限りVCなどの出資者にはポートフォリオ全体でのリターンがないため、出資する事業領域を「成長率」や「マーケット規模」のような軸で選定する必要があります。
もちろん「成長率」や「マーケット規模」は我々にとっても重要な指標ですが、あくまで社会課題解決を目指しているので、取り組む領域によってはそれを最優先することが必ずしも事業目的の達成にならないということがあります。


(※社会課題解決の事業ってどやねんという方へ)

となると、絶対にこの世になくてはならない事業に対して出口戦略がないために資本的な支援をされづらいという現状を打破するためにも、「出口戦略があろうがなかろうが儲かるもんは儲かるから皆でやろうよ」という投資家に対するインセンティブ設計をするためにも、資金提供者にファイナンシャルリターンが出つつ社会課題解決を応援できるような汎用性の高いモデルを模索する必要がありました。この頃はまだ、「VCファンドは株の流動化がないと無理やから向いてなさそやな」くらいにしか考えてませんでした。

スキーム迷子になる日々

出口戦略が関係ない最も一般的な調達手段は融資ですが、これは貸金業という金融系の超ゴツい資格が必要で当時の私たちには条件的に厳しそうでした。
(ちなみにソーシャルレンディングなども私が理想とする形に近いのですが、貸金業と匿名組合契約の合わせ技なので同様に難しそうでした)

他には例えばクラウドファンディングのような、出資者と実行者を結ぶとか、当時は与信という概念が流行りはじめていてAI与信とかファクタリングみたいな事業が目立っていたので、そういうプロトタイプを何個か作って検証してみては壊し…ということをやっていました。

特に与信には今でもすごく興味があって、銀行などの融資に関する与信は過去への信用で、VCによる出資は未来への信頼ですが、ちょうど2年前くらいはこの””過去への信用”と未来への信頼”の変数を洗い出して上手く定量化し評価できないか、もしくは今まで注目されてこなかった与信要素になるものを可視化して判断材料にできないか、などにも挑戦し、地域金融機関にシステム導入を出来ないかディスカッションさせていただくなどをしていました。
面白かった話でいうと、起業家のパーソナリティ2000項目と経営する会社の財務指標に相関がないかみたいなことも調べたりしていました。N数が少ないとはいえ唯一相関係数が0.5を超えた項目は、雑に言えば「起業家のgive精神と財務的な成功の相関」でした。(今でもこれは真だと思っている

(参考までに、最近は色々出てきてホントすごいし正直悔し羨ましいです)
PwCのサステナ項目の財務評価 
VCの投資判断AI 

そんな途方も無い紆余曲折を経て結論として辿り着いたのは、「やっぱ自分たちで考えて判断してお金出すほうが早いな」という至ってシンプルなものでした。

今まで起業家たちを応援してきたノウハウや、関わってくださっている起業家たちの生の定性・定量データを自分たちで分析し蓄積して、それを自分たちがまず投資活動に活用し、効果が出たらより汎用性の高いツールに落とし込んで仕組みを広げていけばいい。そんな思考に落ち着いたのです。

幸いにも1年半前くらいから、ご縁があっていくつかの(利益相反のない)VCと働かせていただき、投資決定や出資先の取締役会への出席やモニタリングのような仕事をさせていただいたりもしていました。凄まじい大先輩の起業家・投資家の方々とお仕事させていただく中で、VCファンドを運営するノウハウや心構えが少しずつ溜まって来たことも踏み出すきっかけとなりました。

ただプロフィットシェアというあまりベンチャー投資に馴染みのない方法を採用するのにもまた紆余曲折がありまして、実は株式投資でも似たようなことが可能なのです。取得請求権を付けた種類株、CBを含む社債、配当など、色々な方法をシミュレーションしパートナー企業とディスカッションを重ね、リーガルも入念にチェックした結果(そして私が半ばワガママを押し切った結果)、このプロフィットシェア契約というものが出来上がりました。

*1 今回のファンドはよく「ソーシャルインパクトファンド」と混同されがちなのですが、どちらかというとソーシャルインパクトファンドは投資対効果が財務面においても比較的高い事業に対して、社会性という観点でも再評価し企業価値を上げていくという方向性が主流です。

一方、私たちのファンドが挑戦したいのは
・「投資対効果が一見低いように見える」もしくは「まだまだ検証段階にある」ようなソーシャルビジネスを
・自分たちの蓄積してきたデータや事業立ち上げノウハウやコミュニティ、パートナー企業のリソース、そして出資金によって
いかに投資対効果が高い事業へ昇華させていくかということです。

*2 似ているジャンルでソーシャルインパクトボンド(SIB)もたまに引き合いに出されるのですが、SIBは課題解決によって削減できた主に行政予算が、課題解決者への報酬や事業資金の補完になることを理想としたスキームであり、その事業活動単体で商売になることを前提にしている訳ではありません。

(どちらの手法もここ数年で注目されるようになった社会課題解決領域においてとても大切な取り組みで、とっても興味があります。私はこれらの分野は完全にど素人なので一線で活躍している方々から色々と教わりたいと思っています)

このファンドで証明したいこと

話を戻しますと、そういう訳でこのようなVCファンドの形態に辿り着きました。
冒頭に記したようにあくまでこの手段はファイナンシャルリターンのみではなく、社会起業家の事業推進によって社会課題が解決されることと、資金提供者に対するニュースタンダードを打ち立てることも狙いとしてありました。パートナー企業の方々にはその旨を伝え、出資先の事業拡大にご協力いただくことと、連携によってパートナー企業それぞれが持つ本事業へ貢献できることを前提に出資していただきました。taliki社や今まで応援して来た社会起業家に対するフェアで誠実で綿密な審査をしてくださった企業さんもあり、その経験のおかげで私たちの視座と解像度が段違いに上がることとなりました。

ではなぜ冒頭のように悔しさに襲われたかというと、結局私はまだ何も成し遂げていなかったからです。

リリース後色んな方が期待してくださり希望を持ってくださり(嬉しい)、素敵な起業家の方々からたくさんのお問い合わせをいただき(超嬉しい)、日本最年少の女性VC代表パートナー(違ったらごめんなさい、教えてください…)と褒めてくださる方もいらっしゃり、その全てのお言葉が光栄すぎて身にあまるほどでした。ただ、私は会社を初めて3年も経ってまだ1つの社会問題もこの世から消せていない上に、消える兆しさえ作れていないという事実は依然として私に重くのしかかってきました。今までのほんの少しの実績はあれど、それも社会起業家へのクリティカルで再現性のある支援モデルとは程遠い形でした。

そんなことは当たり前にわかっていて、記者会見前日なんかはリリースが落ち着いた後の活動のこと(とBTSのグラミー賞のこと)しか考えていなかったくらいなのに、終わってみて殴られたようにその無力さを実感したのです。
個人的にはちょうど記者会見の五年前の2016年3月15日はカンボジアに自身にとって二校目の小学校建設を終えた日でもありまして、あの時も無力さを全身で感じて(この話もまたどこかで)五年も経ったのに、自分の実力はここまでしか成長していなかったのかと、どれだけ私はこの五年間サボって来たのかと、あまりにも不甲斐なく感じてしまったのでした。

そんな訳で、このファンドで必ずや刻み込みたい実績は、「絶対にこの世になくてはならない事業」を作る起業家にとっての一番の理解者・応援者・ブースターとなることと、出口戦略があろうがなかろうが社会課題解決は儲かるもんは儲かるというのをベンチャー投資家として証明することです。

見返してみたら私の自己満懺悔の記事となってしまいましたが、そんな船に一緒に乗ってくださる(というか課題解決の船に一緒に乗せてくださる)社会起業家の方と全力で世界を切り拓いていきたいと思っています。相談ベースで結構ですので、お気軽にご連絡ください!

一号案件は、パートナー企業が総出で応援している工藤くん。

次回は「ファンドの特徴、うちから出資受けない方がいいパターンもあるよ」的な記事を書こうと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました!

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