見出し画像

【読書】「世界は贈与でできている」

「贈与」という言葉の意味は知っているけれど、これまで生きてきた中で贈与のことを深く考えたことはなかったので、新しい学びと発見の多い本でした。

現在の社会経済は資本主義で成り立っています。
資本主義とは言ってみれば等価交換の社会。
モノやサービスに対して、その価値に見合うだけのお金と交換することによって成り立っている社会。
ただ、資本主義は完璧な仕組みというわけではありません。

その資本主義の隙間を埋めるのが贈与なのだそうです。

人間はお金ももらわなくても他人に何かを与えることもあるし、お金を払っていないにもかかわらず誰かから何かを受け取ることもある。
この、お金で買うことができないものの移動のことを贈与と呼ぶわけですが、実は私たちは贈与の正体が何なのかよく分かっていません。

その贈与の正体を知るための本が「世界は贈与でできている」です。

印象深かったのは、贈与は、受け取っていることに気づき(負い目を感じ)、その返礼として始まらなければいけないという話。
贈与とは見返りを求めずに一方的に誰かに与えることを言います。
しかし、誰からも贈与を受け取っていないと感じている状態で自分から贈与を開始してはいけないとこの本では述べられています。

そのことは「ペイ・フォワード」という映画を元に説明されています。
私は映画を見たわけではありませんが、この本の説明によると「ペイ・フォワード」は町中に広がっている、「善い行いを受けたら3人にパスをする」というペイ・フォワード運動の起源をたどる物語なのだそう。
そしてたどり着いたペイ・フォワード運動の起源であるトレバー少年は、最終的には事故によって命を落として物語は終わるそうです。

映画の主人公であるトレバー少年は、家庭環境や友人関係では恵まれた境遇ではなく、誰かから贈与を受け取ったという実感は持っていなかった。
しかし、トレバーは世界を善くしようとペイ・フォワード運動という贈与を開始してしまった。
それが贈与の失敗に繋がってしまったと解釈されています。

つまり、誰からも贈与を受け取っていない(負い目を感じていない)贈与は実は贈与ではなく、交換である、と。
トレバーは自分の命と交換に世界を良きものに変えるものを与えたということ。
贈与は交換ではなく、誰かから受け取ったものに対する返礼である。
これがこの本における贈与の出発点です。

人は子供が生まれた時、何かしらの見返りを求めることなく、苦労して子供を育てます。
これもある種贈与となりますが、子供に愛を持って育てるのは、自分自身が子供の頃に親から愛を持って育てられたという負い目があるからできること。
誕生日のプレゼントなども同じです。
自分が受けた贈与に対する負い目に気付き、そこから新しい贈与を繋いでいく。
これが贈与の正しいあり方なのだそうです。

この内容は第1章で紹介されている話ですが、この後の章でも様々な小説や漫画、物語などから贈与の本質に迫っていきます。

読んでいて率直に思ったのは、贈与を効果的に作用させるのは意外と難しそうだということ。
贈与には大きな力が宿ります。
しかし、強力であるが故に、むしろ贈与が受取人の自由を奪う呪いとして作用してしまうこともあります。(第3章より)

本の中で「想像力」というキーワードが多くの章で登場します。
贈与を効果的に作用させるためには、贈与の正しい理解はもちろんのこと、1人1人の想像力がかなり重要であることがわかりました。

贈与の正体、想像力の重要性、これからの社会のあり方、学ぶべきこと、など様々なことを考えるきっかけになる本でした。


この記事が参加している募集

サポートいただくとめちゃくちゃ喜びます。素敵なコンテンツを発信できるように使わせていただきます。