見出し画像

【読書】「Corders(コーダーズ)凄腕ソフトウェア開発者が新しい世界をビルドする」

コーダーという人種

壮大なドキュメンタリー番組を見ているような、そんな感覚を覚える本でした。コーダーとは、プログラムのコードを書く人たちのこと。
日本だとあまり馴染みのない言葉かもしれない。
(他の国ではどうなんだろう)
今の日本だとプログラマーと呼んだ方が非IT業界の方には馴染みがあることでしょう。

ただ、ノーコード、ローコードという技術も徐々に浸透し始め、ほとんどコードを書かずともプログラミングができる時代になってきたことを考えると、コーダーという言葉も徐々に浸透してきて、プログラマーとコーダーを明確に区別するようになる日も来るのかもしれません。

この本がどんな本なのかというと、様々なコーダーの人たちの人生の一端に触れることができるドキュメンタリーのような本です。
この本の著者は、いわゆる本の中に出てくるようなコーダーではなく、本業はニューヨークタイムズの記者。
世界中に存在するIT企業(GAFAに始まり、名の知れた企業からマイナーな企業まで)で働いている(いた)様々なコーダー達にインタビューをしながら様々な話を聞き、それらをカテゴリごとにまとめた作品です。
コーダーの仕事の仕方、学び方、価値観、生き様、などなど。
コーダーという人間がどういう人種なのかを知ることができるでしょう。

本の分類としてはIT系の専門書に分類される本かもしれません。
しかし、この本を読むのにプログラミングの知識はほぼ必要ありません。
むしろ、プログラミングやプログラマーのことをあまり知らない人こそ楽しむことができる本ではないかとすら思います。
プログラミング教育が必修化されたり、リモートワークが増えている昨今、プログラミングというテーマに興味を持っている非IT業界の人も多いのではないでしょうか。
・プログラマーという職業とは一体何をしている人なのか。
・普段からプログラムを書いている人はどういう思考法でどういう価値観を持っているのか。
・そしてこの業界には一体どんな問題が潜んでいるのか。
この本を読むことでこれらのモヤモヤが少なからず解消されるのではないかと思います。

自身がプログラミングと関わる機会が少ないとしても、仕事上でプログラマー(エンジニア)の人と関わる機会がある人も少なくないことでしょう。
そのような方にも、コーダーという人がどういう人種なのかを知ることができる読み物です。
もちろんIT業界で働いている人でも楽しめる内容です。
私も非常に興味深く読むことができました。

残念ながら日本人のコーダーは出てきません(米国のコーダーが多め)が、だからこそ日本と同じ部分、違う部分が見えて面白いかもしれません。

コーダーの倫理

この本を読むとコーダーの生き方だけでなく、IT業界が抱える深刻な課題を多く知ることができ、色々と考えさせられることがありました。

特に、ダイバーシティ(多様性)の問題は世界的にかなり深刻なのだと知ることができました。
日本でもIT業界は男性の割合が高いことが一つの大きな課題だと認識していますが、これは日本だけではなく世界的に(特に米国は日本以上なのかもしれない)同じ課題が存在していることが分かりました。
性別だけでなく、特に米国のコーダーは白人男性ばかりだそうで、多くの人種が暮らしている米国においては、ダイバーシティの課題は日本以上に深刻なのかもしれません。
コーダーが白人男性ばかりになるとどのような問題が起きるのか。
例えば、FacebookやTwitterなどの、世界的に影響力の多きいシステムを開発をする人たちが、日頃迫害されり差別を受けた経験のない人たちだとすると、システムの規模が大きくなった時、人種差別などの被害が起きるであろうことを想像することは難しい。
結局、元々強い人たちの集団が作ったシステムは、弱い人を助けることにはならず、強い人に有利なシステムとなってしまう。
日本でも現在SNSの誹謗中傷が社会問題になっていますが、世界的に見てもSNSの問題はかなり深刻なようで、コーダーという人種の倫理観とダイバーシティはIT業界だけに止まらない非常にシビアな問題に感じました。

このような倫理的な問題は、SNSの分野だけでなくあらゆるIT分野で存在しているようです。

例えばAIの分野。
Googleが開発したAIによる顔認証システムでは、黒人をゴリラと判別したとして問題になりました。
この問題は、AIに学習させるためのデータにそもそも黒人のデータが少なかったことが原因であるようです。
この問題に対しGoogleはAIの判断に人間が手動でテコ入れをして修正をしたらしいです。
現在のAI技術の主流であるディープラーニングは、人間がアルゴリズムをかなげなくても、データから学習した結果を元に判断できるようになることが最大の強みです。
データに偏りがあるとはいえ、そこに人間が手動で手を加えることは良くないことだと考えるコーダーもいる一方、データに偏りがある以上人間が手を加えて現実的な結果になるように補正するのは致し方ないと考えるコーダーもいる。
(この問題についても、データが偏ってしまうという点で、大元を辿るとダイバーシティの問題に帰着してしまうわけですが。)
AIを開発しているコーダーは、技術とは別に、AIとはどうあるべきなのかという倫理的な問題を考え続ける必要がありそうです。

他には、例えばセキュリティの分野。
セキュリティは守りのための技術ですが、どう守るか知るには、敵がどうやって攻撃してくるのかを知る必要があります。
つまり、セキュリティのスキルを身に付けるにはハッキングのスキルが必要になります。
しかしながら、ハッキングというのはどこまでがセーフでどこからがアウトかの線引きは非常に難しい。
また、データを安全にやりとりするためには暗号の技術が重要になります。
セキュリティに詳しいコーダーは、データを安全にやりとりする技術を開発してそれを公開したいと考える。
しかし、暗号の技術が世に出回ってしまうと、テロ組織などの犯罪グループのやりとりも暗号化されて対策することが難しくなってしまうため、国としてはそんな技術は隠したいと考える。

本のタイトルで、「凄腕ソフトウェア開発社が新しい世界をビルドする」とあります。
まさしく、今我々は働いている業界がどこであろうと、生きていく上でITは切っても切れない状態になってきています。
SNSやAIなど、コーダーが新しい世界を構築していると言っても過言ではないでしょう。
より良い世界を構築していくために、IT業界のダイバーシティやコーダーの倫理観がどうあるべきなのか、色々と考えさせられます。


この記事が参加している募集

サポートいただくとめちゃくちゃ喜びます。素敵なコンテンツを発信できるように使わせていただきます。