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【読書】「ここはウォーターフォール市、アジャイル町」

「ウォーターフォール」「アジャイル」という言葉はIT業界でのシステム開発の開発手法(アジャイルは手法というよりは思想ですが)としてよく使用される言葉です。

「ここはウォーターフォール市、アジャイル町」
この本は物語形式でIT企業の業務改善について学べる本となっています。
主人公の相良真希乃が社内のマーケティング部門から情報システム部門(情シス)に異動するところから物語は始まります。
問題だらけの情シスの現状にショックを受け、その現状を打破して良いチーム・仕組みを作り上げていくために主人公の相良が奮闘していく物語です。

本の内容は全10章からなりますが、各章で物語が少しずつ進みながら、章末で詳しい解説もふんだんに盛り込まれています。

初めこの本のタイトルをみたときは、開発チームの業務改善がメインの話かと思ったのですが、中身を読んでみると、序盤は運用チームやヘルプデスク(お客さんからの問い合わせ対応をするチーム)の業務改善の話がメインで、後半になるにつれて開発チームが徐々に関わり出してきます。

ですので、開発チームだけでなく、IT業務に関わる情報システム全体の業務改善とチームビルディングのお話になっています。

物語が開始した直後の情シスの状態は、いわゆる従来のウォーターフォール型の開発プロセスが取られており、結果的に様々な問題が発生しています。
そこで主人公の相良がアジャイル的な思想を自分たちのチームに取り入れながら、少しずつ業務改善とチームビルディングを進めていく物語です。

私も長らくIT業界で働いているので、IT部門で働いている人の課題として共感できる部分が多くありました。
この物語の内容ほどひどくないにしても、おそらく、一部似たような悩みを抱えているIT企業や社員の方は非常に多く存在しているのではないかと思います。その方々が業務改善をしていくためのヒントが数多く盛り込まれています。

改善のためのヒントは難しいものではなく、チャットツールの導入やホワイトボードの活用など、やろうと思えばすぐに実行に移せるであろうことも多くあります。
ただ、実施することが簡単でも、社内で新しいツールやルールを文化として根付かせることは簡単ではありません。
反発する人もいる中で、どのようにして新しい文化を根付かせるのか、という点においても多くのヒントが書かれてします。

この本の中でも書かれていますが、ウォーターフォール型のプロセスとアジャイルの思想は対極にあるものではありません。
また、ウォーターフォール型の開発プロセスが必ずしも悪いものというわけでもありません。
この本では、ベースはウォーターフォール型の開発プロセスでありながら、部分的にアジャイル的な思想を取り入れていくことで、全体の業務プロセスやチーム間のコミュニケーションをより良いものに改善していきます。

ウォーターフォールかアジャイル、どちらかを選べという話ではないので、多くの企業が部分的に参考にできる部分も多いのではないでしょうか。

比較的歴史の新しいIT企業であれば、この本で紹介されているアジャイル的な文化が既に根付いている企業も少なくないかもしれません。
そのような企業で働いているのであれば、目新しい発見は少ないかもしれませんが、「日本の多くのIT企業が抱えている課題」「新しい文化を根付かせるための工夫」というコンサルタントに必要となる知識や思考法を学ぶことはできると思います。

問題解決に最も重要なことは想像力

ここからは本の内容とはあまり関係ありませんが、読んでいる中で個人的に感じたこと、気づいたことを整理した内容です。

この本の舞台となっている企業の情報システム部門は、開発チーム、運用チーム、ヘルプデルク(サポート)という風に役割によってチーム(組織)が分かれています。きっとある程度規模の大きな組織になるとこのように役割によって組織を分けている企業も多いことでしょう。

しかしながら、業務プロセスにおいて問題(課題)が発生する根本的な原因となっているのはこの役割分担にあるように思います。

仮に1人の人間が開発・運用・サポートなどの一連の流れを全て担当するとしましょう。そうすると、後々運用やサポートが楽になるように開発を進めることでしょう。

しかし、開発、運用、サポートが全て別の組織として分かれている場合、責任感・想像力は低くなることでしょう。
開発チームは、あとのことは運用・サポートチームがなんとかしてくれるだろう、という発想になり、様々な選択肢の中から開発が最も楽な手法を選ぶことになるでしょう。
そうなると、苦労するのは運用やサポートを行う人々であり、多くの不満や課題が出てくることになるでしょう。

仮に、IT部門で働いている全員が、開発・運用・サポートという全ての立場を経験することができたなら、お互いがお互いの立場を尊重することができ、課題は少なくなるのかもしれません。

しかし、組織化するのは役割分担をしてそれぞれが自分の得意分野を生かすことに大きな意味があるので、全員が全ての立場を経験するというのは根本的に組織化のメリットを潰すことになるのでしょう。

そこで、役割分担をしてそれぞれが強みを生かせる中で、ツールやルール、コミュニケーションスタイルを工夫することで個人の想像力がなくてもお互いがお互いを尊重しあえる状態にする。
これがアジャイル的思想の本質なのかもしれない、と思いました。

新しいツールを導入するのは、どれだけ人間のミスを減らして作業を効率化できるかが重要になってきます。
しかし、それだけでなく、どれだけ人間の想像力を補えるのか、という視点もかなり重要なのかもしれません。


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