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【読書】「アフターデジタル」中国に学ぶオンライン前提の社会の在り方

アフターデジタル。

オフラインとオンラインの境目がなくなり、常にオンラインであることが前提となる社会のことをこの本ではそう呼んでいます。
人々の生活は常にオンラインに接続された状態になり、人々の行動データが常にオンライン上に積み上げられている状態。
そしてそのデータを活用してユーザーに対して体験価値(UX)を高めていく社会の在り方を表した言葉です。

オンラインを使ってオフラインを便利にする、という従来の考えではなく、むしろオンラインであることが前提となり、デジタルの中にリアルが包括された状態。

今、お隣の国、中国がまさにアフターデジタルの社会となっています。

この本はアリババやテンセントといった中国のトップ企業の事例をもとに、現在が中国がどのような社会になっているのかを解説した本となります。

今中国のIT技術がすごいというのは、メディアの報道などでも何となくわかるかと思いますが、この本を読んで中国IT企業の本当のすごさが分かりました。
中国は、データを活用したデジタルな社会基盤が日本よりも圧倒的に進んでいる。

日本は電子決済ですら遅れている状態。
キャッシュレスは徐々に浸透していますが、未だに現金を使う場面は多いし、決済の手段も様々なものが乱立している状態。

一方中国では決済はほぼ電子決済で、購買から移動まで、人々のあらゆる行動データが集まっているらしい。
そしてそのデータとAIの技術をフルに活用し、ユーザーに最適化された体験価値を届け、行動を促す。
そしてその行動からさらにデータを集め、更なる体験価値を提供する。
このようなサイクルを回すことができるような、オンライン前提の社会基盤がすでに出来上がっているの今の中国。

興味深かったのは、データを活用して人々の信用を数値化することによって、中国人のマナーが劇的に向上したという話。

まさにアフターデジタル。
デジタルの中にリアルが包括されている社会と表している現象のように思いました。

日本と中国は文化や価値観、政治の在り方など、多くの事情が異なるので、一概に真似できるようなビジネスモデルばかりではないでしょう。
しかし、オンラインであることを前提に、行動データを活用してユーザーの体験価値を高めていくというインフラや価値観においては、中国から学ぶべきことも多いのではないでしょうか。
この本の中ではこのような思想をOMO(Online Merges with Offline)と呼んでいます。

***

本の中では触れられていませんが、個人的に読んでいて1つ、気になったことがありました。
それは、人々の格差について。

中国のアフターデジタルの事例を読んだ時、中国ではデータをフル活用して個人の行動に最適化されたサービスが受けられるため、非常に便利そうで良い世の中になりそうだという印象を持ちました。

その一方で、人間の行動が全てデータによって決められてしまっているようにも感じました。
意識的に自分自身で日々の生活を効率化しようと思わなくても、行動していればそのデータが使われていつの間にかどんどん便利になっていく世の中。

これは楽である一方、思考停止な人が増える可能性も高いのではないかと思いました。
もちろん、そういった仕組みを作っているような一流企業で働く人には優秀な人が集まっていますが、そうではない、データによって行動を促されている人たちの思考力は今後どうなっていくのかが気になる所です。

この本は主にビジネス的な観点からアフターデジタルの世界についての解説がなされていましたが、日本という国にアフターデジタルの概念が浸透してきたとき、国としての政治の在り方、そして人々の幸福に対する価値観がどのように変化していくのか、すごく気になることで、楽しみでもあります。


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