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自分の目的に合った運動強度は?ウェアラブルシャツを使って探ってみた。

例えばダイエットが目的の運動をしたいとき「どのくらいの強度での運動が自分に合っているんだろう」と考えたことはありますか?
緩すぎても、過激すぎても、徒労に終わりそうで嫌ですよね。
今回は運動強度別に計測したバイタルデータを眺めながら、タイトルの内容について触れていきたいと思います。

(文 : 開発チーム O)

計測準備

計測には弊社製品 ウェアラブルマルチ生体センサー ASTROSKINを使用しました。ASTROSKINは、カナダのメーカーが開発・販売している「着る計測装置」です。シャツを素肌に直接着るだけで、心電図や呼吸、SpO2などの生体信号が手軽に長時間計測できます。


この製品を使った記事は以前にもご紹介しておりますので、製品の概要についてはそちらをご参照ください。

目的

今回被験者として沢山汗をかいてくれたのは後輩のT君です。
本計測の目的としては、「最近少し顔が丸くなってきた…」という悩みを持つT君の希望により、「ダイエットに合った運動強度」を探っていきたいと思います。(丸くなってきた…とお悩みの顔も弊社ソフトモザイクプラスならこのとおり)

計測の流れ

運動強度を分けるためにトレッドミルを使用して4種の速度(時速 4km, 8km, 12km, 15km)で走ってもらいました。各運動は「3分間」行い、運動間にはクールダウンのために「5分間」の休憩を設けています。

安静時心拍数の算出

安静時心電図(3分間)
安静時心電図(拡大図)

実験前にT君の安静時の心電図も記録していました。
特にノイズ等混入することなく計測できています。
このデータを基に心拍数の変化を算出したものが下の図です。

安静時心拍数(3分間)の推移

3分ほど計測し、平均で65bpm でした。
これがこれからデータを見るうえでの基準となります。

計測結果

それでは速度別の計測結果を見てみましょう。
(表示・分析に使用したソフトは弊社のBIMUTAS-Video)

今回観察対象として着目したのは「心拍数」です。

速度によって心拍の様子が変わっている様子が見て取れます。
個別に詳しく見てみましょう。

運動強度① 時速4kmの歩行(3分間)の場合

まずは時速4kmにおける心拍数の変化です。
(走るというよりは歩く程度のスピードです)
グラフは「3分間の歩行」とその後の「クールダウン(休憩)」における心拍数の変化を示しています。

基本的には心拍数100bpm前後を推移していますが、運動終わりの30秒ほどで150bpm付近までの増加が見られ、その後70~80bpm付近に落ち着いていきました。

運動強度② 時速8kmのランニング(3分間)の場合

続いて時速8kmにおける心拍数の変化です。
(「健康づくりのための身体活動基準 2013(厚労省)」においては
時速8km程度からがランニングといえる強度になるようです)

今度は時速4kmに比べて心拍数が120bpmを超える割合が多い印象です。
(運動終盤の心拍数の急激な減少は、元データとなる心電図が体動により正しく計測できなかった影響が出てしまいました)
運動後、心拍数は低下していきますが、安静時の心拍数と比べると高い100bpm付近を維持したままでした。

運動強度③ 時速12kmのランニング(3分間)の場合

続いて時速12kmにおける心拍数の変化です。
時速8kmに比べると大分「走っている」という印象が強くなりました。

明らかに心拍数が増大しています。
3分間かけて最大182bpmまで心拍数が上昇しました。
(この心拍数182bpmが、今回の実験における最大心拍数でした)
クールダウン中も何とか120bpmを下回る程度です。

T君の様子からも明らかな負荷を感じました。
「次(15km)はだめかもしれないです…」とのこと。

運動強度④ 時速15kmのランニング(1分間)の場合

時速12kmの様子から判断して、怪我があってはいけないので時速15kmは1分間の計測で中断することにしました。その結果が以下の通りです。

1分間の走行でしたが、心拍数は170bpm付近まで上昇し、クールダウン中にもやはり安静時心拍数までは下がりませんでした。

分析

ここまでの結果を基に、「T君の目的に合った運動強度はどの程度か」についてお話ししたいのですが、実はこのとき意識するべきポイントがあります。

%HRR(心拍予備量)について

例えば安静時の心拍数が60bpmの人と90bpmの人がいた時、「心拍数120bpm 程度を目安に運動をしましょう」と言われても、目安となる心拍までの上り幅に30も差があるため、二人が行う運動の強度が同じとは言い難いことが分かるでしょうか?
普段の運動習慣の差などを考えると、このようなケースは十分考えられます。
この課題に着目しているのが「%HRR(心拍予備量)」という指標です。
安静時心拍数と最大心拍数を踏まえたうえで、どれだけの余力を残しているかを算出するイメージです。算出式は以下の通りです。

  %HRR = (心拍数-安静時心拍数) / (最大心拍数-安静時心拍数)
  *
ここに実験で得た安静時心拍数と最大心拍数を当てはめます。

つまり、%HRRを活用すれば各個人の特性も踏まえたうえで「自分の目的に合った運動強度」を設定しやすくなるのです。
(※この他にも運動強度設定のための考え方はいくつかありますが、本記事では%HRR(心拍予備量)を採用させていただきました。)

心拍ゾーン

心拍計を扱う企業やスマートウォッチメーカーの多くは%HRRなどを基準にして、「心拍ゾーン」と呼ばれる目的別運動強度を定義しています。
(ここではEPSON社のHPに掲載されている定義を引用させていただきます)

出典:Epson View  心拍ゾーンと運動強度
https://view.epson.com/portal/ja/help/pc-heartrate_zones_exercise_intensity/?type=help&device=pc&lang=ja

上記の表に追記する形で、T君の計測結果(安静時心拍数 65bpm、最大心拍数 182bpm)を基に「各強度(%HRR) に相当する心拍数 = T君換算の心拍数」を算出します。
そして、その心拍数と比較した今回計測したデータの位置づけも含めてまとめたものが下の表です。

こうして表を見てみると、今回の実験における時速4km(100bpm前後)はウォーミングアップで、時速8km(120から140bpm)は脂肪燃焼ゾーン、
時速12km(120付近から182bpmまで上昇)では脂肪燃焼ゾーンから最大強度ゾーンまでを一気に駆け上がったという感じでしょうか。

したがって、T君がこの表を参考にダイエットを志すのであれば、脂肪燃焼ゾーン(心拍が112~147bpm)の運動ができる時速8kmのランニングをしてみると良いのかもしれません。

まとめ

今回は弊社製品ASTROSKINを使用することにより、ゆっくりとした歩行からランニング中の心拍数の変化を記録しました。
そして%HRR(心拍予備量)や心拍ゾーンという考え方から、T君のダイエットには時速8km程度のランニングが合っているのではないか、という事がわかりました。

また、今回は観察対象として着目しませんでしたが、ASTROSKINは他にも呼吸SPO2なども計測することができるので、それらを観察することで違った視点から運動強度について分析することもできるかと思います。

運動時の生体信号計測は、大学での研究、企業の製品開発など、様々な場面での活用が期待されます。是非今回の事例を参考にしてみてください。

今回使用した製品

○ウェアラブルマルチ生体センサー ASTROSKIN

○解析ソフトウェア BIMUTAS-Video

○プライバシー保護ソフト MosaicPlus

※ 製品・ブログ等に関するお問い合わせは、上記リンクページ下部の「お問い合わせ」よりご連絡ください。


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