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戦争と紛争についてのMnemozineインタビュー(1)最近の研究と「冷戦」について

去年、NUSの学生雑誌であるMnemozineの記者によってインタビューされたときの記事です。英語版は2019年10月号に載ってます。

「日本語訳をアップしてもいいか」と尋ねたら、「いい」と言っていたので載せます。以下、インタビュー前半です。


現在の研究

記者:こんにちは。最近はどのようなことをされていますか。現在の研究プロジェクト、新しい研究分野、最近習得したスキルなどについて話ていただけますか。

土屋:現在は大まかに言って4種類のプロジェクトに関わっています。まず、ティモール島の歴史を扱った博士論文をベースにした初めての本の原稿を書いています。かねてより、「島」、「国民国家」、「帝国」といった地図上の尺度や「植民地主義」「人種」「冷戦」そして「人権」のような歴史的な概念が持つ地政学的な効果に関心を持ってきました。この原稿では、過去の約150年間に渡って、学会・政治団体・言語集団のような様々なコミュニティーがどのようにティモールの住民たちの帰属意識を表現し、表象してきたのかを再構築しています。

2つ目のプロジェクトは、私の博士論文における問題設定を他の場所でも試してもらうというものです。暫定的に「東南アジアの境界地域における帰属空間」という題にしています。そこでは、某ジャーナルの臨時編集長として、フィリピン、台湾、アチェ、カンボジアの研究者たちから構成されるチームをまとめているつもりです。創価大アメリカ校のシェーン・バーター准教授が補佐してくださっているので大変助かっています。

3つ目は、(NUSの)マイトリ・アウン・トゥイン先生と連携しているプロジェクトで、NGOを中心とする活動家のネットワークによるアジアに関する知識生産を批判的に検討しようというものです。私自身の国際機構やNGOに対する関心は、2009年から2010年頃に東ティモールの国連機関のスタッフをしていたことから来ています。ですが、東南アジア史の研究を続けるに従って、彼らの活動や知識生産を批判的な立場から分析する必要があると考えるようになりました。特に、彼らのリサーチが「アジアの何が悪いか」というスタンスから始まっていることに気がついてからは特にそうです。「人権」という概念だけに頼った調査の場合、「誰が悪いか」は最初から決まっています。最大の人権侵害者としての「独裁者」たちです。しかし、このような問いと答えから出発してしまうと、アジアをアジア自体の文脈で理解することができなくなってしまいます。それで私は、私自身の国連での経験から一歩引いて、「我々はどのようにアジアについて知っていることを知っているのだろうか」と問うことにしたのです。

最後に、4つ目のプロジェクトは、益田肇准教授が率いている「冷戦再考:アジアにおける草の根の経験」です。このプロジェクトの目標は2つあります。ひとつは、オンラインのオーラルヒストリーアーカイブズを設立することです。このアーカイブズのために、私自身を含む数十名の研究者がアジア各地で「冷戦」と脱植民地化に関するインタビューを集めています。私自身は、フィリピンのミンダナオ島、東ティモール、できればインドネシアや日本でも集めたいと思っています。冷戦再考プロジェクトのふたつ目の目標は、現在行っている数回のワークショップに基づいて編著を出版することです。

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アジア研究、特に東南アジア研究の前線の話がかじれます。 それから、大手の出版局・大学出版局から本を出すことを目標にしてる人たちには参考になる内容があると思います。良い研究を良い本にするためのアドバイス、出版社との交渉、企画書の話など。

きしぉう博士が書いたアジア研究や歴史学関連の2020年10月から2021年1月までの有料記事の全てが読めるマガジンです。

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