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「いき」の構造 Jリーグサポーターに感じた「いき」とは?

デザインを担当した『「いき」の構造』という本が今年1月に出版されました。
(発行元 :PIE International)
https://pie.co.jp/book/i/5585/

哲学者・九鬼周造が「いき(粋)」の概念を解説した1930年初版の名著で、本書はそれに大川裕弘さんの写真を組み合わせたビジュアルブックとなっています。

「いき」って何?

お話を頂いた時「"いき"?興味あります!」と思ったものの、改めて「"いき"って何?」と問われてもはっきりとは答えられない自分がいました。(えっと…お洒落で、ユーモアがあって、威勢がいい…? 祭りの神輿担ぎ、纏を振りかざす火消しとか…)

一旦話は逸れますが、私は応援しているJリーグクラブ・FC東京へ「東京=江戸!江戸っ子サポーターの粋なアイテムとして、タオルマフラー代わりになるFC東京手ぬぐいを作りたい!」と2006年に企画持ち込みをし、4種の手ぬぐいを作らせて頂きました。

その時に多数作成したデザインの、ボツ案の一つがこちら↓

ゴール裏サポーターを浮世絵風に
手ぬぐいに落とし込んだらこんな感じ?注染では再現が難しいデザイン…

私の考える「いき(粋)」は、ざっくり ↑ こういうイメージだったんです。「そいやっ!そいやっ!」と言ってそうな。
実際、当時のFC東京サポーターについて「当意即妙なコール」などが「粋」だと評する声は見られました。
※私含めた身内からの評価が大半だと承知の上ですのでお許しください🙏

本の話に戻り。
本書では「いき」のキーワードとして「媚態」「意気地」「諦め」が挙げられています。

  • 「媚態」異性との関係。
    うん、色ごとは「いき」ですね。

  • 「意気地」は気力、意地を意味する言葉で、本書では「やせ我慢」のような解釈です。
    「武士は食わねど高楊枝」なんかはそれっぽい。

  • 「諦め」執着心の無さ
    確かに「終わったことよ」とさっぱりしているのは「いき」な感じ。

こうして見ると私が最初にあげたイメージとはちょっと違う感じがしますね。それでは「サポーター」に「いき」の要素は無いのでしょうか?
もう少し続きをお読みください。

制限の中でお洒落を楽しんだ江戸っ子

本書では「いき」を紐解く様々なジャンルの一つとして「着物」を挙げています。当時幕府は「庶民に贅沢をされては困る」と、着物の色に制限をかけました。許されたのは「鼠」「茶」「藍」のみ…しかしここで諦めないのが江戸っ子。
「制限上等!」とばかりに微妙な染め分けで実に豊富な色バリエーションを生み出し、お洒落を楽しみました。結果的に「鼠」「茶」「藍」こそが「いき」を体現する色となりました。
ちなみにそれらのバリエーションは「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)」と呼ばれ、本書では文字の色に取り入れています。

コロナ禍でのサポーターの「意気地」

コロナ禍の現代に戻り。
スタジアムでは2020年以降、未曾有の「声出し応援禁止」が続いています。

コロナ前には想像もしなかった注意メッセージ

そんな中、声を出せなくても応援してやろうじゃないか!楽しんでやろうじゃないか!という「意気地」を感じるシーンも多数生まれました。

その一つがFC東京サポーターによる「エア・シャー」
「シャー」とは簡単に説明すると、その日のヒーロー選手が腕を振り回す動きに合わせコールをする"勝利の儀式"のような物。通常はこんな感じ。

(懐かしい…😭)
そして、コロナ禍での「エア・シャー」がこちら。

一つ目の動画はアウェイ広島戦での紺野選手。コールはせずに腕だけ振り回し、お互い笑ってしまうという。紺野選手、良い表情ですね。
二つ目の動画は下部組織U-15むさしの優勝報告会での一幕。(「エア・シャー」の元祖は彼らだったかも?)現場は実に微笑ましい空気に包まれました。

制限を逆手に取ったからこそ生まれた楽しげなシーン。
「声なんか無くたって俺たちは繋がれるぜ?」と言わんばかりの余裕。

これこそ"いき"じゃないか!
私は本のデザイン作業をしながら、はたと膝を打ったのでした。

もちろんFC東京だけでなく他クラブでも、同様の"いき"的光景は多数見受けられました。(他サポの知らない方に掲載許可のご連絡をするのは気が引けてしまったのでご紹介できず)
コロナ禍でも精一杯工夫をこらして応援に励んだ&楽しんだサポーター達、いきだね!

制限の終わりが見えてきた

2022年5月現在、Jリーグではスタジアムでの声出し規制緩和についてようやく動きが見られ、6月の公式戦より「声出し応援を段階的導入」することが発表されました。
ここまで書いておいてなんですが、コロナが収束してこんな制限が無くなることが一番です。歌声や声援で満たされていたスタジムが恋しい。「みんなでユルネバ」だってもう2年前の話。

「あの頃は声を出さずにどう応援するか、みんな四苦八苦してたんだよね」と、笑い話になる日を心待ちにしています。

graphic designer
kishiko oomi
http://k-oomi.com

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