つるのおんがえし
むかぁーし、むかし、貧しいけれども、心の優しい一人の若者がおりました。
ある冬の寒い日、若者は町へと薪を売りにでかけました。
すると町に向かう途中の田んぼで、一羽の鶴が罠にかかってもがいているのを見つけました。
鶴は苦しそうに鳴き声を上げています。
「おお、おお、これは可哀そうに」
若者は鶴を可哀そうに思って、罠を外して逃がしてやりました。
すると鶴は、若者の頭の上を3べん回って嬉しそうにひと鳴きすると、そのままどこかへ飛んでいきました。
その日の晩、日暮れごろから降り始めた雪は、しずしずと積っていき、若者の住む山の小屋にも、雪がたいそう積もっておりました。
若者が囲炉裏の火にあたっていると、トントン、トントン、と表の戸を叩く音がします。
「ごめんください、どうか開けてくださいまし」と若い女の人の声がしました。
若者が戸を開けてやると、そこには頭から雪をかぶった一人の娘が立っていました。
「まあ、まあ、それは寒かったでしょう。さあ、早くお入りください」
若者は、娘を家に入れてやりました。
娘は言います。
「わたしは、この辺りに人を訪ねて来ましたが、どこを探しても見当たらず、雪は降るし、日は暮れるし、やっとの事でここまでまいりました。ご迷惑でしょうが、どうか一晩泊めてくださいまし」
丁寧に手をついて頭を下げる娘に、若者は
「それはそれは、さぞ、お困りでしょう。こんなところでよかったら、どうぞ、お泊まりなさい」
と、優しく声をかけました。
「ありがとうございます。泊めてくださるお礼に、ひとつ私が仕事をいたします。ですが決して中を覗かないでください」
娘はそう言うと、障子を開けて隣の部屋へと入っていきました。
若者が、囲炉裏に当たって静かにしていると、隣から娘の声が聞こえてきました。
「……えー。こっから?こっからやるの?」
しばらくすると、隣からギコギコギコと言う音や、コンコンコンと言う音が聞こえてきます。
「ん?いや、あれ、おかしいな」バキッ「ああああ、やっちゃった!」
若者は我慢できずに障子を開けて、中を覗いてしまいました。
するとそこには、薪を使って必死に機織り機を作ろうとしている、一匹の鶴がいたのです。
鶴は若者に言いました。
「ちょっと、なんで機織り機持ってないんですか!」
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