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【ショートショート】三日月ファストパス

「ファストパス取った〜」
満面の笑みを浮かべて彼女が駆け戻ってくる。手には二枚のチケットが誇らしげにヒラヒラと揺れている。
「けっこう高かったでしょ。そんなに無理しなくてもよかったのに」
彼女からチケットを受け取りながら僕は尋ねた。
彼女がブンブンと勢いよく首を降る。
「何言ってるの、せっかく久しぶりの二人っきりのお出かけなんだからさ、するでしょこれくらい」
スキップしそうな勢いの彼女が飛び出さないように手を繋ぎながら、僕はパスに書かれた時間までどこで過ごそうかとあたりを見回す。
手頃そうなカフェはあちこちにありそうだ。あたりをつけてそちらに歩き出す。
彼女がぽつりとつぶやいた。
「それにさ」
僕は彼女に聞き返す。
「それに?」
「ぼやぼやしてると、満月になっちゃうよ?」
いたずらっぽく微笑む彼女。

時間通りに僕らはゲートにたどり着く。
目の前のドアが開く。
二人並んで乗り込んだのは月まで届くエレベーター。
見上げた夜空には綺麗な三日月が輝いていた。


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