モデル音声を使った音読指導に向けて

これまでの投稿(音読学習のあり方①~④)で、英文を音読練習する際にはモデルの音声を使って取り組む必要があることを書いてきました。しかし、どれだけ音声教材の重要性を伝えても、一定数の生徒はモデル音声を自らの学習に取り入れることができないまま、漠然と学習を進めてしまうようです。

本稿では、どうして(中・)高校生たちがなかなかモデル音声に手を伸ばさないのか考え、私なりにいくつかの提案や問題提起をします。

わざわざCDをかけるのが億劫

一点目は当たり前のことですが、学習者、ましてや普通の中高生からすると、家庭学習で音読を始めようというときに、わざわざCDを取り出してモデル音声を再生する手間が面倒だというのが実際のところでしょう。近年はCDではなくQRコードでスマホから音声にアクセスする教材も増えていますが、やはりこのひと手間感が億劫なのは否めません。

基本的には音声教材を使った音読の重要性とその効果を理解・実感してもらって、学習者にその一手間を惜しまないようになってもらうしかありませんが、一人一台端末でのデジタル教科書がさらに普及していき、目の前の教科書(タブレット)からワンタッチでモデル音声が流れるようになれば、モデル音声を使った音読がより身近なものになるでしょう。

モデル音声が速すぎる

せっかくCDなりQRコードからのアクセスなりでモデル音声を流しても、その音声が速すぎて音読練習に適さないことがしばしばあります。
大抵のモデル音声は、淀みなく、流暢すぎる読み上げになっていますが、音読練習、とりわけ「読み聞かせを意識した音読」のためには、このスピードでは練習に適しません。

もちろん、こうした流暢な読み上げのモデル音声は、音声をリスニング活動のためにも使えるようにという意図があると思います。また最終的に黙読で読んでいったときにはそのくらいの速度で理解していかなければならないという基準を示していることもあるでしょう。こうしたモデル音声の必要性・需要は当然あるものと思います。

であれば、(教材出版関係の方々にお願いです)読み聞かせに適したモデル音声を用意できないでしょうか。通常音声スピードのものに加え、読み聞かせモードの音声も用意してもらえると、教師だけでなく学習者自身にもたいへん役立つと思います。
多くの教科書・教材には、英文の切れ目(スラッシュを入れるようなところ)でポーズを入れた音声もご用意いただいています。こうした音声はリピーティングやサイトラのような活動にたいへん重宝します。それに加えてというのは求めすぎかもしれませんが、やはり「読み聞かせモード」は欲しいところです。

「読み聞かせモード」では、単にスピードが遅めであるだけでなく、間の取り方や強弱、イントネーションをなるべく強調したものにして、まさに「読み聞かせ」をしているような音声が理想です

最近では英文を読み上げてくれるソフト・アプリもかなり進化しています。少し前まではモノトーンの機械音声だったのが、最近は人が読んでいるのと遜色ないレベルでの読み上げができるようになってきました。
このまま技術が進化してくれれば、読み上げ機能の中に「読み聞かせモード」ができるかもしれません。強調したい部分や適切な間の取り方を文章内からAIが判断し、強弱やイントネーションをより強調して読み上げる機能が、近い将来出てくることを期待します。

もっとスピーチ教材を

読み聞かせを意識した音読に適しているのはどのような題材・英文でしょうか。私は、おそらくスピーチ教材が最も適していると思います。

スピーチであれば、強弱やイントネーション、適切な間の取り方からジェスチャーまで、音読の際に意識させたい要素がたくさん詰まっています。できれば話し手の生の肉声をそのまま教材にすれば、感情移入した音読もしやすくなるはずです

例えば、(英文自体の難易度の問題はありますが)Steve JobsやSevern Suzukiのスピーチは有名で、英語教材でも取り上げられることが多いと思います。TED Talksにも生徒に触れさせたい素晴らしいスピーチがたくさんあります。こうしたスピーチを、彼らの生の肉声をモデルとして音読練習することで、論説文や説明文の音読では意識しにくい部分に取り組むことができるのではないでしょうか。

現実的にはこれらのauthenticなスピーチをそのまま教材として扱うのは、様々な観点から難しいかもしれません。ただ、読み聞かせを意識した音読指導にはこうしたスピーチ教材が適していることは確かだと思います。できれば中学英語の短文・会話文の音読練習から高校英語の長文音読練習への橋渡しとして、スピーチを模した教材で音読指導したいものです

今回は、生徒がより良い音読学習ができるように、モデル音声や教材のあり方を考えてみました。教材選定や教材作成の際に少しでも参考になれば幸いです。

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