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架空想日記  1日目

1日目

 宇宙を漂流することになり果てしない無の時間に気が狂わないように、日記を書くことにした。

 これを書いているときはグリニッジ標準時2522年13時50分。救助のためにあらゆる信号を送ってはいるがすぐに救助は来ないだろう。もう太陽の光はどれかわからぬほどに小さくなってしまった。

 星々の中で上も下も関係なく浮いているだけの私。酸素の方は大丈夫だし、電力も自動発電で問題なし。

 問題は食料か。もともと食に興味がない私だったが、こうなったらやはり食べたいものが頭を過るというもの。母の料理や体に悪そうなジャンクフード。どれも脳裏によぎると舌の上にじわーっと味がしみる気がする。よく悪友と監視の目を掻い潜ってスラム街にまで行ったのも懐かしいものだ。

 そんなことを考えながら、スティック食を食べる。カスが溢れづらいように少ししっとりとしている。モソモソと食べながらこれからのことを考えてみる。が、救難信号をだし救助される。それ以外に希望もないのでどうしてこうなったかを考える。

 探査船のクルーとして小惑星探査を行うため、居住区を出ることになったが、担当になったリーダーが良いやつではなかった。

 リーダーは能力はあるものの、他の人にもそれを押し付けてくる節があった。チームワーク自体は悪くない。しかしリーダーに合わせて動けばジワジワと首が締められるようだった。

 まぁそんな上司はとうに宇宙の彼方に飛ばされてしまったわけだが。能力の良さでこの探査船に配属された。そもそもほぼ初対面の人と完璧に合わせることなんて無理だろう。それでもうまく取りまとめて回せてはいたつもりだったが。世の中うまくはいかないものだな。

 さて、こうなっては仕方がない。探査機の事故によってクルーの大半は放り出され、事故当時リーダーに反発して船内の隅っこにいた俺だけが助かってしまった。生き残るための努力はいくつかした。発電装置を再起動させ、生命維持装置も稼働を確認した。救難信号は発光したが、常に起動していては電力消費が激しい。

 観光船が通るルートから離れて入るが、どこかの物好きな誰かが気づかないかと願うばかりだ。

 こう思うと、前の職場は良かったな。リーダーは同じような「自分が」主義だったが、それ以外の仲間たちはいいやつばかりだった。同じような探査船業でもしっかり金を使うとこには使っていたから船内の環境なんかは良かったな。

 さてと、日記を書き出した初日だしなこれぐらいでやめておこう。書き終えたらもう一度、救難信号を焚いてみるか。


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