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歯が黒くなっていたので歯医者に行った話


夕食後から気になってはいた。
歯と頬の肉に挟まった米粒を舌で掻き出しているとき、舌に当たった歯の感触がザラザラとしていたのだ。
歯科医院から届く定期健診のお知らせが届くと、必ず通っていたが、新しい環境になってからは行けていなかった。
それでも毎日の歯磨きは欠かさずにしていたので、虫歯になる確率は低い。
歯に何かくっついているのか。
夕食を食べ終えて、鏡の前に立つ。
あれから何度舌で取ろうにも、ザラザラとした感触は変わらなかった。
不審に思いながらも見てみると、歯が黒い。
全体じゃなくて歯ぐきから半分ほどが黒くなっていた。
これはやばい。
本格的に虫歯だ。
でも痛みはない。
もしかすると歯の表面が欠けているのかも。
だからザラザラしているんだ。
どっちにしろ治療が必要だ。
そう思うと不安で不安で仕方ない。
そう、私は歯科医院が大嫌いなのだ。
歯科助手として働いていた経験があるけれど、自分が治療される側になるとどうしても苦手意識がある。
それは子供のときの出来事のせいだろう。

小学生の時、母に連れられて歯科医院に行った。
そこでの治療中、何故かはわからないけど私は泣いていた。
きっと怖かったのだろう。
すると先生が

「黙れ!!!」


と大声で言ったのだ。
そこから私の中で、歯科医院=怖いところとなってしまっていた。
さすがに大人になって泣くこともないし、怒られることもない。
けれど私の不安は増すばかり。
どうしようどうしようどうしよう。
これ以上悪化しないように、すぐに予約をしたが不安は収まらない。
ベッドに入っても、頭に浮かぶのは不安ばかり。
どうしようどうしよう。
不安を抱えながら、いつの間にか眠ってしまっていた。

翌日も朝から不安に襲われていた。
絶対に治療になる。嫌だ。怖い。
憂鬱な気分は収まることがない。
しかし、いざ歯科医院に行ってみるとまさかの診断結果だった。
「これは虫歯じゃないです。着色です」
え?
虫歯じゃないの?
着色って、他の歯は何もないのになんでこの歯だけ?
「以前治療した歯みたいで、詰め物が時間が経って歯に段差を作ってしまっています。そこに着色がついているので黒く見えているだけですね」
予約の電話のときに、虫歯かもしれないと言ってしまった過去の私をとても恥ずかしく思った。

結局、不安になることは現実には起こらないんだ。
些細なことで不安になる私だけれど、今までその不安が的中したことはない。
不安で心が動かされるのは、きっと精神衛生上よくないだろう。
今回でいえば虫歯や歯が欠けていたりして治療が必要になっても、いま不安になることで何かが解決するわけじゃない。
今回の件で、そう思った。
すぐに不安になる性格は昔からだけど、こうやって何歳になっても気づきを得られるのは生きている醍醐味なんだな、と改めて感じた。

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