【ファンタジー小説】優しい午後の歌/第六話「ミスティ」
「つれて行けない。君がどうして……その、殺されたかを……」
「……知るまで?」
僕は頷いた。彼女は首を横に振る。
「とても言えないわ」
「じゃあ、僕も連れていけない」
そう言うと、ミスティは不敵な笑みを浮かべた。
「本当に馬鹿ね、鳥頭のトリア様。私は幽霊よ。封印が解かれた以上、ここで地縛霊をしている意味もないの。そう、もうあなたに憑りついているのよ」
全身に怖気が走る。鳥肌まで立っているが、倒れるわけにはいかない。
「……わかった。君の正体は僕が突き止める」
「好きにしなさいな」
ミスティは二枚も三枚も上手かもしれない。
何より悔しくて情けないことに、僕はこんな美しい人を見たことがなかった。
塔から戻った僕は、早速、ラウザーにどこに行っていたのかと怒られてしまった。ミスティはラウザーの背後でふよふよと浮かんでいた。もちろん、ラウザーにはミスティは見えないようだ。ふざけて透けた指でラウザーの頭をツンツンつついては僕を笑わせようとする。
「……どこを見ているんです、王子?」
いぶかしんだラウザーに厳しい視線を投げられた。笑いをこらえるのに必死な僕はラウザーから逃げて慌てて自室に引っ込んだ。
もちろん、ミスティもついてくる。それに僕は顔をしかめてしまった。
「一応、男子の部屋なんだぞ。君みたいな女性がいるべき場所じゃない」
「ふふふ、トリア様。立派な王子様ですものね」
ミスティは一瞬で消えた。消えてしまうと逆に気になってしまう。そんな自分が嫌になる。ベッドに寝転がって枕に顔を埋めた。
気になって、気になって仕方ない。僕はあの人に恋をしてしまったのだろうか。
だけど、今夜はもうとても呼べそうにない。上手く彼女に対応出来る気がしない。何より、彼女は幽霊なのだ。恋などしても仕方がない。かなうはずもない。
でも……。
僕は想う。彼女にかなう姫なんて見たことがないのだ。
それに、この国の王位継承者だと主張する彼女の謎も解かなくてはならない。明日は舞踏会だ。彼女は明日も現れるだろうか。いや、現れてくれるだろうか……。
僕はなかなか眠れなかった。