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ナイアガラの滝がどうでもよくなった日

ニューヨークに滞在していた時、次の目的地であるトロントで何をしようか考えていた。

トロントと言えばナイアガラの滝。

それしか私にとって魅力的に思える場所がなかった。

なぜ、トロントを目的地にしたのか。

地元で一緒に働いていた後輩が留学でトロントへやってくるタイミングだったからだ。

トロントで合流しようね!

職場にいた頃から、そう約束を交わしていた。

トロントでは日本人宿に泊まることにした。

旅をするなかで、日本人宿に泊まったのはこれで3回目か?

ペルーにいた時も日本人宿に泊まり、オーナーの夫婦にマチュピチュに行くまでの手配をしてくださったりだとか、スペインにいた時はちょっとくせのある関西人のおじちゃんが営む日本人宿で、毎日夜ご飯を作ってくれたというありがたい思い出がある。

やはり日本人がいると心強い。

言葉が通じるという安心感もある。

私は日本語しか話せないので、まともに話す機会を望んでいたのかもしれない。

ニューヨークから夜行バスで移動しトロントに着いた。

唯一の楽しみ、後輩との約束も果たし、あとはナイアガラの滝に行くだけとなった。

宿には日本の書籍が数冊あった。

ちょうど、日本の娯楽に飢えていたところだったので、いくつか本を持ち出し、部屋で読むことにした。

手に取ったのは湊かなえの『贖罪』。

なんとなく手にとった本で、湊かなえの作品は読んだことはなかった。

どんな話だったかはもう忘れたが、読後感だけは今でも覚えている。

鉛のように体が重く、頭がずーんとした感覚。

読書感想文や何かしらの作品に対する感想文が全く書けないわたくしとしては、これが最大限の力をふりしぼって書いた感想文。

小説を読んでこんな感覚になるのは初めてだった。

落ち込んでいるときに読むものではない。

ますます病んでしまう。

こんなにも行動する気力をなくす威力があるのか、湊かなえは。

ほかの作品もこんな気分に陥るのだろうか。

明日行くはずのナイアガラの滝はどうでもよくなった。

もともと行きたくてしょうがなかったわけではないし。

世界三大の滝だかなんだか知らないが、こちとらそういう精神状態ではない。

湊かなえシンドロームを患ってしまっている。

その日は、部屋から出る気力さえも失せていた。

とはいえ、一度寝れば、それは解消されるらしい。

翌日目が覚めると、湊かなえワールドに引きずられていたはずの私は、すっかり旅人モードに戻っていた。

よし、ナイアガラの滝にでも行ってみるか!

すっかり正気を取り戻し、意気揚々と世界三大の滝とやら、ナイアガラの滝へと向かった。

あの、どんよりとした重たい空気をまとっていたはずの私は、ナイアガラの滝からいかんなく発せられる、一生分のマイナスイオンを浴び、きれいに浄化されたのである。




一生分のマイナスイオン



ナイアガラの滝がどうでもいいと思った次の日に行ったナイアガラの滝


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