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バイクでカエルを踏んで絶望した日

そうだ、映画監督になろう。

そう思い立ち、
映画学校に行くと決めた6年前のこと。

一番ネックだったのが学費と生活費。

金銭的余裕はなく、貯金もない状態。

いい歳して母親に頼るなんて出来ない。

そんな私に救いの手を差し伸べてくれたのが
新聞奨学生という制度だった。

学費の全額を新聞社が肩代わりする代わりに、
学生が新聞配達の業務を行う制度である。

しかも、毎月給与が支給され、寮付き。

お金がない身としてはとてもありがたい制度だ。

迷うことなく新聞奨学生を申し込み、
学校へ入学した。

昼間は学校と夕刊配達、夜中は朝刊配達。

想像以上に毎日が激務だった。

バイクが未経験のため、まずは乗るところから練習。

運転まで慣れたら少しずつ新聞を積み、
新聞を積んだ状態で運転をする。

ただバイクを運転するのと、新聞を積んで
運転するのとでは全く感覚が違った。

前と後ろに大量の新聞が積まれているため、
バランスを少しでも崩すと転倒してしまう。

バイクを倒す度に、大量の新聞を地面に
ぶちまけては、また積みなおすという失敗を
何度も繰り返した。


そんななか、季節は梅雨に入った。

ある日のこと。

一番慎重にならなければならないのは、
マンホールや白線の上を運転するとき。

この部分は特に転倒しやすいスポット。

何度も転倒をしたスポットだ。

滑って転倒すると、また一から新聞を
積みなおさなければならない。

これがかなりの時間ロスになる。

さっさと配達を終わらせて、
1分でも睡眠時間を確保したい。

絶対に転ばないよう慎重に運転をする。

マンホールでもない、白線でもないところを
走っていたら何かを踏んでしまった。

バイクは派手にひっくりかえり、
無惨にも大量の新聞が地面に散乱した。

やってしまった。

泣きそうだった。

散乱した新聞のそばで、カエルが死んでいた。

原因はカエルだった。

梅雨になり、カエルがわんさか、
道路に出没するようになったのだ。

暗闇のなか運転をしているため、
カエルの存在に気づかなかった。

落胆している場合ではない。

新聞をまた一から積みなおさなければ。

雨の日は新聞一部一部がビニールで梱包されている。

そのため、新聞が重なると滑りやすく
丁寧に積み直さなければ、荷崩れを起こしてしまう。

雨に打たれながら、新聞を一から積みなおす。

カエルの無駄な血も流れてしまった。

精神的ダメージをダブルで食らった日。


道路でカエルが無惨な姿になっているのを
見るたびに、あの頃のことを思い出している。

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