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”絵が無い絵”を売る ~ダリの金稼ぎ~

ものすごいスピードでダリは紙にサインをしていく

1枚で相当な金額となる芸術が次々に生み出され床に散らばっていく

奇妙なことは その紙には絵が無かったこと


史上最高の天才、セックス恐怖症にしてオナニー依存症。
ピカソを見下し、モンドリアンをカス呼ばわりするほど卓越した画力で世界を魅了する芸術家、奇才サルバドール・ダリ。
(他人に勝手に点数を付けた「ダリ番付」的なものが実際ある)

ダリは過去に紹介したように、画家としての範疇に収められるより
「世界唯一の天才」として、ダリという個人の存在をブランド化することに全精力を注ぎます。

布教活動(金稼ぎ)があまりに露骨過ぎて、芸術家界隈から非難を浴びることになりますが
その手法の一つが「絵のない版画を大量生産する」方法でした。


版画というのは本画(描いてあるもの)に比べ大量生産できることから
作家の宣伝をするには非常に適しています。

また、印刷物とは違い一つ一つが美術品。
おまけに1部いくらで複数制作して画廊などに卸すので、収入的にも安定しやすい。

版画作品においても独自の情熱を注ぐ画家は多いのですが
ダリクラスの奇人になると一味も二味も違い、もう絵すら描きません

数秒に1回のペースで版画紙の本来サインがありそうな位置に
「Dali」とサインをした紙を束でいくらで売り付けるという業界人の目ん玉が飛び出る方法で販売していきます。

因みに、この紙の束を買ってる人達はその辺の画商や版画工房(らしき人)でダリ自身会ったこともない方々。
せっせとダリらしいモチーフを散りばめた版を(勝手に)作り、販売…… というダリの布教活動に善意で貢献しようという見事な連携プレイ。

善意の方々が絶妙な技量で版画を仕上げてくれたおかげで
周りの人間はシャレにならない迷惑を被っております(本当にどれがダリの真作か分からなくなっている)。

絵はパチモン…… サインは本物……

しかし、そんな事態のために美術界には秘策がございます。

それがレゾネと言われる研究資料。
有名作家であれば大抵存在するレゾネには、サイズから技法から様々な作品の公式情報(時にお茶目にもデマを記載したもの)が載っています。

当然ダリにもレゾネが存在するため
「このレゾネに載ってるモノはダリが自身で手掛けた本物で間違いない」
と胸を張って取り扱い、鑑賞ができるわけです。

しかしながら、狂人ダリにまつわる人々は流石のくせ者揃いであり
「あのレゾネに載ってるモノは間違いだ!こっちのレゾネが公式だ!」
とありがためいわくも主張を始める人たちが現れる始末。

こうなると何が正しいのか分からないため
「多分これはいいんじゃね?」とか「有名なオークションで売れてるから」とか「自己責任で買ってね」とか
やんわりとした無法地帯で作品が売買されていくことになります。

状況を打開しようと殊勝な研究者がダリの作品の分類・分析に乗り出しますが
サインを分類していく中で560種までサインを分類したところで研究を止めてしまいます

これは、サインが「あまりにも膨大だった」という理由よりも
「数え出したら一つも被らず560種になり分類不能なことに気付いた」というのが主な理由のようです。
(要は「正」の字で数えてったら「一」が560本になった)


少し前に後悔された映画「ダリランド」でものこの奇行は再現されていたようで、もはや逸話というか常識になりだしているため
もし、「ダリの版画買ってみようかな」というチャレンジャーがおられましたら是非「自己責任」で冒険してみてください。

因みに

ちゃんと「これは大丈夫」というモノもあるので買われる際は、販売されてる人に諸々聞いてみてください。
そこで「お客様。ダリに偽物は存在しません」と言って売り付けてきたら、その人はある程度事情を知ってる確信犯かもしれないのでご注意を。

「お客様。ダリに偽物は存在しません」
サインだけがされた白紙に自分でダリっぽい絵を摺って売ってた人がよく言った言葉のようですので。

(まぁサインは本物なので「偽物は存在しない」はあながち間違いではない)

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