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『LAMB/ラム』の予告編は どこが間違っていたのか

*本稿は、主としてすでにこの映画を鑑賞した方々向けのレビューです。

 いやあ、あの結末には驚いた。「納得したか?」とか「気に入ったか?」と聞かれると口ごもってしまうけど、「予想外だっただろう?」と問われれば、まさに然り。あの重々しい足音と、荒々しい息づかいの持ち主は、もう少し超自然的な存在だと思っていた。
 アイスランドの羊農家のメス羊が、ある日、思いも寄らない子どもを生む。羊飼いの夫婦は、それを自分たちの子どもとして育て始めるが・・・。
 赤ん坊が「実母」に連れ出されたシーンは謎。四つ足では抱き上げられないだろうから、ネコ科の動物のように首根っこをくわえて運んだのかなというのが、私の想像です。

 ところで本作の予告編内であの子の立ち姿をさらしてしまっていたのは大失敗だったのではあるまいか。
 それがなければ、出産直後にあの子を無言で受け入れた夫婦の反応も、それほど不自然には感じなかったはずなんですよ。あの場面では、何が生まれたのか観客には提示されていなかったのですから。
(本来なら、赤ん坊が連れ出された前述のシーンで、観客は初めてそれを知り、ショックと驚愕に見舞われるはずだった)

 ところが多くの観客は予告編を先に見てしまっているので、誕生の瞬間、夫婦の間で「何だ、これは?」「あなた、まさかこの雌ヒツジと?」「こんな化け物は生かしておけん」「いやよ、育てたいわ」的なやり取りが交わされないのが不思議でならなくなってしまう。
 その後に登場する夫の弟も、あの子が普通の人間でないこと自体は認識しつつ、どんな経緯であんなものが生まれてきたのかについては特に追究する素振りがないんですね。

 それはすなわち監督や脚本家が(たぶん確信犯的に)そこをすっ飛ばしているからなのだが、一方で、そのことによって、この作品に独特のオフビートな味わいが付け加えられていることも指摘できる。
 おそらくこの物語は、「欲求不満の農夫が羊と一発ヤって」みたいな下品なジョークの存在しない、どこかのパラレルワールドが舞台なのだろう。

 ついでに言えば、予告編の出だしでいきなり「子どもを亡くした夫婦」とナレーションしてしまったのも凡ミスだと思う。
 劇中の墓参りのシーンで初めてそのことがわかるよう、せいぜい「子どものいない夫婦」と言うにとどめるべきだった。
 序盤の「時間旅行」の会話も、そのせいで伏線としての効きが弱くなっちゃったしね。

 それにしてもあの動物たちは実写だったのか、CGだったのか。
 冒頭から、馬群は見事に撮影者の都合に合わせて移動するし、獣舎の羊たちはそろってカメラに目線を送る。
 特に羊はあまり頭の良くないと動物だと聞いているので、実写だとしたら、あそこまで言うことをきかせるのはすごい調教技術だと思う。
(テーブルに着いたノオミ・ラパスのバストショットの横を、しっぽの先端だけが動いていくカットも奇抜で面白かった。それだけで、しっぽを垂直に持ち上げた飼いネコが部屋に入って来たことが伝わるんですよね)

 一方、あれがCGだとしたら、低予算の北欧映画が『ビースト』のライオンにも劣らぬリアルさを出していた点で、これもまたすごい。
 それで制作費がなくなって俳優を3人しか使えなかったのか・・・というのはしょうもないジョークですけど。

LAMB/ラム
LAMB
(2021年、アイスランド=スウェーデン=ポーランド、字幕:北村広子)

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