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【書評】『鬼時短』に悪の組織・電通が先駆けて取り組んだJTCでの働き方改革の本丸を見た

 私の知っている電通という組織は悪党が集まっている秘密結社であり、汐留の一等地に無駄に太陽光を反射させるいかがわしい建物の中に初対面の人でも「一郎ちゃん」などと親しげに話かけては取り組む事業の利益の大半を持っていく燃費の悪いJTCだったように思います。

 それが、恋人に振られたショックで自殺してしまった女性社員がなぜかJTC代表格である電通の殺人的な業務時間によるストレスによるものというナラティブの置き換えが発生し、経営陣や幹部社員のクビがいっぱい飛んで謎の合同会社に過去の栄華を実力と共に支えた仕事人を押し込み当の電通はたくさんの「内部改革プロジェクト」が立ち上がり、その枢要なもののひとつが本件『鬼時短』(小柳はじめ・著 東洋経済刊)と繋がっていくわけであります。

 思い返せば電通やグループとのお付き合いもなんだかんだ25年ぐらい重ねており、電通とはテレビ広告の凋落と共にやる仕事の中身もどんどん変わっていっていて、いまでは変なマイノリティ関連の調査とかどうでもいい仕事しか回って来なくなってしまいました。もっとおカネが欲しいです。

 で、本件『鬼時短』はそういう危機に瀕した電通が、死ぬほど社員を働かせる社風から一変させるような内部改革に取り組んだメソッドを開陳している本でありまして、改革に後ろ向きな社員が面従腹背しないように経営者は健全な私欲を前面に出して繰り返し、口を酸っぱく言い方に工夫しながら喋り倒せってことが書いてあります。ですよねー。

 これ、見方を変えれば要するに「トップが時短の意味と向き合い、少ない時間で効率的な仕事を社員に施すにはどのような組織改革をするべきか」という王道であると同時に「お前のいままでやってきた仕事は無駄だったから」と本音を言わずにいかに会社が稼ぎ出すカネや価値に社員の活動をフォーカスさせるのかって話に直結するわけですよ。

 他方で、後ろのほうで超絶電通くさい現場重視のエッセンスがぶっ込まれ、これ電通のカルチャーだよねってのが垣間見えるエピソードも混ざっており非常にお茶目です。ただ、真のエッセンスは「効果が分かれば現場は激変する」とか「適切なKPIを設けましょう」などといった話の奥にトップがある程度時短による組織改革の効果を最初に信じられるかという、トートロジーだけど重要な部分が潜んでいます。

 これから働き方改革だと言われ、生成AIで仕事が減るんだとか、本書にもありますが業務管理で非コア業務をRPAにシフトする話など、少ない労働力でいかに多くの業務をこなし、社員一人あたりの生産性を上げていくのかという根本に対して本書はストライクの結論を出しているのです。

 うっかり本書を買ったところなぜか著者からサイン入りが送りつけられてきたので、手持ちの余った本を某上場の流通会社(クライアントさん)の社長に読ませたり、目下働き方改革で困り果てている病院経営のおじさんや産業廃棄物業界の大御所にも読ませたところ、皆さん大絶賛しておられました。

 特に「大事なところが太字になっているので、そこだけ読めば言いたいことが良く分かるので時短になった。感動した」という小学生の読書感想文でも書かなさそうなことをメールで書いて寄越す年間利益25億円の非公開企業社長(85)がこの世にはいるらしいというのは良い社会勉強になりました。早く盛大な葬式を出して欲しいと思います。

 やはり、本論では社長の強い意志と現場感覚、そして適切な時短ツールとカルチャー的な面とをイコールフッティングする必要があるよねえ、というところに妙味がありましたので、JTCの時短・働き方改革を進めるうえでのお手本になる内容に思います。ただ、自動化ツール云々については医師とか看護師とかドライバーとか、ブルーカラーな労働集約的でそもそも手がけなければならない仕事量が多い業界は、もう少し工夫しなければならないかもしれません。

 あくまで現場において必ずしも会社にとっての価値を生んでいないかもしれない仕事や雑用がたくさんあって、それが組織のカルチャーなのだという理不尽を前提にしているホワイトカラーの生産性改善のための時短、という風に割り切ったほうがいいかなと感じました。

 蛇足ながら、何冊か購入してクライアントさんというか経営者たちに配ってみたのですが、経営する業界や会社の風土で受け止め方の大きく違うタイプの本だなあというのは実感しました。やっぱり人手不足に直面して社員を丁寧に使っていかなければ黒字倒産しかねないと危機感を感じているジジイほど真摯に受け止めている印象です。

 読みやすいので、働き方改革で悩んでいる事業者や幹部の方はぜひどうぞ。でも一番大事な教訓は経営者がしっかり意志を持ってないと時短できねえぞという結論に戻ってくるので、うっかりしたJTCの現場が通読してしまうと面従腹背推奨文書になってしまいますのでご注意を。

 画像はAIが考えた『奴隷に奴隷制度改革を考えさせた結果、奴隷が勝手に長時間労働を自慢し始めたので頭を抱える農場主』です。

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