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映画『ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』を家族で観た感想

 山本家幹事長を務める長女が「ドラえもんを観たい」と仰るので家族で映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)を見物に行きました。

 3回も。

 来週4回目を観に行く予定ですが、大人が観ても面白いのでまあいいかなと思うんですけどね。

 この映画は完璧なご都合主義が綺麗に詰め合わせされていて心地よいのですが、そもそもドラえもんが出す道具というのは都合よく使われてナンボのものですし、映画なんてだいたいにおいてご都合主義になるのは当然のことですから、あまり気にしないで楽しむのが一番なのではないかと思います。

 思い返せば『ドラえもん のび太の宝島』も『ドラえもん のび太の新恐竜』も劇場で見物していて、長女にとっては『新恐竜』が初めての映画であって(当時1歳)、劇場内で爆睡していたことを考えると今回の『空の理想郷』は映画館で初めてちゃんと観たドラえもん映画として思い入れが深いのでしょうか。

 個人的な関心事は、物事の振り出しに必ず駆り出されるけど、冒険に行こうと声を掛けられることなく本編はおろかエンディングまで二度と出てこない出木杉先生が登場するかどうかでした。せっかく遠大な冒険のヒントになるきっかけを作ってくれたのに、のび太はおろかいつものメンバーが彼に一切打診も相談もせずに大冒険に向かうのは反知性主義だと思うんですよ。


 そして、本作でも当然のように最初だけ出木杉先生が登場してワクワク感のある話をして、でも現実ではそんなことはないと切って捨てるところまでの出番でありまして、のび太の冒険譚において5人目のバディとして飛行機に乗ることも時空を超えることもなく、ただ優秀な小学生としての役割を全うするところに学歴社会日本の限界を感じるのであります。

 また、何の前触れもなく南海キャンディーズの山里亮太さんが出てきて売れ残りの素敵な船をローンでドラえもんに売りつけていました。時空ものの物語では定番の、冒頭へのシーンループが伏線であるのだろうなあと思っていたら、案の定、なんやかやあって元の場所に戻ってきていたので安心感がありました。あの一瞬で「あ、これは山里亮太だ」と分かるのは素晴らしいと思うんですよね。

 本作品では、みんなが待ち焦がれていた美しいジャイアンや素直なスネ夫が堪能できます。確かにあれはパーフェクト小学生です。のび太がマイペース過ぎて洗脳が効かないというギミックがあり、駄目でどうしようもないのび太に対して、批判やブチ切れ、冷笑ではなく暖かい励ましや勇気づけがあってなお物事をうまく成し遂げることのできないのび太の心情は、どんなに頑張って勉強しても成績が上がらない中学受験に取り組む子どもとオーバーラップするものであって、性格による難ではなくそもそものスペックの低い子どもにいかなる環境を与えても成果を出すことはできないので諦めろという凄く現実的なメッセージがこの映画には込められているように感じます。

 結果として「駄目でもいいのだ」と安易に流れて完璧な小学生になることを諦めることが物語解決のひとつのトリガーになっていることを考えれば、この世界が求めているユートピアは舞台装置としてよくできているなあとも思いました。「洗脳できないほどやばい無能」であるのび太も、アレに変えられてしまうドラえもんというトリガーが引かれるまで舞台装置を完全に壊すほどには吹っ切れていなかったわけですし、そもそもがパーフェクト小学生になりたいのび太の意欲こそが冒険の動機でしたから、大事なものを失うことへの忌避が物語のクライマックスに持って来られるのは自然なことで良くできているなあと思ったわけです。

 素敵な目をしたジャイアンやまっすぐな気持ちのスネ夫が異常に気持ち悪いのに比べて、特段普段と変わることなく、頻繁には風呂に入らなくなった程度のしずかは何の違和感もなかったのは気になるところです。むしろ、ジャイアンやのび太とではなく同級生の女の子とつるむようになったしずかが観たいというのは私だけでしょうか。

 突き詰めれば、粗暴だけど勇敢で決断力がありリーダーシップのあるジャイアン、皮肉屋だけど物事を見極め作戦を立てたり裏を書いたりするのが得意なスネ夫が、普段とは違う冒険の世界において英雄的な活躍をする落差を楽しむのがドラえもん映画だったはずが、なにぶん洗脳されて綺麗なジャイアン正しいスネ夫になってしまって記号性が失われていたのが新鮮でした。

 やはり本作品において私が観たかったのは冒険に連れ出されて洗脳され、実は本性がクソ野郎だった出木杉先生の描写だったのかもしれません。環境の変化に耐えられず与えられた部屋に引き籠もる出木杉先生とか、自慢の知識が異世界で全く通用せず出たとこ勝負で身体を張ろうとするジャイアンやスネ夫に不平不満を垂れる出木杉先生などは是非堪能したいわけですよ。「世の中、所詮はこんなもの」と諦めていろいろぶん投げる出木杉先生とか見たいじゃないですか。便利道具でリュックサックが飛行機になって飛ばされて乗り物酔いになりぐらんぐらんになっている出木杉先生など最高です。

 映画を観終わった兄妹たちと感想戦をしていたのですが、結論としては「タイムパトロール無能」という評価となりました。物事が進んでどうしようもなくなってから介入するのではなく、あのでかい月を建設会社が建立しているところを差し押さえるべきだという長男の考えや、やばい爺さんやパーフェクト猫型ロボットが何かしでかす前に逮捕するべきだという次男の主張ももっともだろうと思います。

 私としても、父として「何事か発生してから対処しようとするとコストが大きいので、問題発生の初期に対応することが大事なんだよ」という説明をしながら、来週のドラえもん映画鑑賞4回目に備えます。



神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント