![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/46753349/rectangle_large_type_2_86ef8895df31501e485babdc0f1d8c9e.jpeg?width=800)
静 霧一 『初夏の白百合』
「ねぇ、香織ちゃん。香織ちゃんって、神様って信じる?」
「神様?うん、まぁ……」
「じゃあさ、今目の前に神様が現れたら、何をお願いする?」
「お願い?お願い……」
美紀のいきなりの質問に私はアイスクリーム片手に戸惑っていた。
中学校の終業式を終え、今日から夏休みを迎える。授業は午前中に終わり、少し早い帰り道を私と美紀はとぼとぼと歩いていた。
だが、夏休みの訪れは夏の暑さの始まりの合図でもある。
あまりの暑さに、私と美紀は途中の駄菓子屋でアイスクリームを買い、公園のベンチで仲良くそのアイスクリームを食べることにした。
夏の日のアイスクリームほど、格別なものはない。
暑さで溶けてしまう前に食べてしまいたいところだが、美紀のいきなりの質問に私は思わず戸惑い、質問の答えを探す。
その間にもアイスクリームは暑さでだんだんと溶け、今にも垂れそうになる。
そんな私を横目に、美紀はぱくりと汗をかき始めたアイスクリームを柔らかく尖った先端をぱくりと頬張った。
「んー!冷たい!」
嬉し気な美紀の言葉にハッとし、自分のアイスクリームを見ると、暑さで溶けかけていることに慌てて気づき、ぺろりと垂れかけたアイスを舐めた。
「私ね、神様がもし目の前に現れたらね、"私に羽をつけて、あの青空に飛ばせてください"ってお願いするの!」
「空、好きなの?」
「うん!大好き!」
美紀は満面な笑みを浮かべた。
私はその無邪気な笑顔が、とても愛おしく感じ、胸の奥がきゅっと苦しくなった。
爽やかな風が吹き込み、私たちの座るベンチに影を作る木の葉の影がかさかさと揺れる。
透き通るような青色をした夏空には、アイスクリームのような入道雲がもくもくと天高く昇っている。
神様っていうのはあそこに住んでいるのだろうか?
そんな風なことを本気で思ってしまうほどに、入道雲は大きく綺麗な純白色をしていた。
その光景に見とれていると、ふと、指に冷たい感触を感じた。
暑さによって、とうとう形を保っていたはずのアイスクリームが液体となり、コーンを滴り落ちているではないか。
その雫が、制服のスカートに垂れそうになって「あっ」と声を上げると、美紀がすかさず、私の指に垂れたアイスクリームを小さく柔らかな唇で甘噛みをして舐める。
「へへ、美味しい」
美紀はまたも笑う。
ずるいよ。私だって我慢しているのに。
私は、思わず恥ずかしくなり、美紀から視線を逸らした。
もし神様がいるのなら、美紀を見つめられるだけの勇気をください。
きっと、そう願うだろう。
でも、もしその願いが叶ったのなら、私はもっとわがままを言うかもしれない。
「ねぇねぇ、香織ちゃんは何お願いするの?」
「私はね―――」
私は微笑みながら美紀を見つめた。
そしてゆっくりと近づき、美紀の持つアイスクリームをぱくりと食べた。
「美紀のアイスクリームを食べることかなぁ」
私は、へらへらとからかうように笑った。
その様子に、美紀は頬を膨らませ、お返しにと言わんばかりに、私のアイスクリームをぱくりと食べた。
お互い、唇を白く汚して、その姿に笑いあった。
そう、これでいい。これでいいんだ。
私は胸の奥の苦しさを抑え、美紀の目を見つめた。
"あなたの唇が欲しい"だなんて言えるわけないじゃん、ばか。
おわり。
応援してくださるという方はサポートしていただければ大変嬉しいです!創作費用に充てさせていただきます!