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鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |永井健一|夢と現実のあわいにて

羽ばたき_導入文

Text|嶋田青磁

 どこからか羽音が聞こえる。遠くなったかと思えばまた近くなる。
 これは夢——なのだろうか?

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 堀辰雄の小説を原作とするコミック、鳩山郁子『羽ばたき Ein märchen』に捧ぐ本展。永井健一氏による作品がやわらかな秋風とともに菫色の塔へと舞い降りました。その絵画世界は、わたしたちに夢の残り香を伝えながら、そっと語りかけてきます。

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 ジジの閉じた瞳の奥に広がるのは、どんな風景なのでしょうか。遠い少年少女時代に置いてきたはずの景色が、雲間からのぞく冬の太陽のようにちらちらとわたしたちを掠めてゆきます。セピア色の夢の中で、はっきりと聞えるのは鳩の羽ばたきの音だけ。わたしたちはいつも、この羽音をたよりに夢の世界を歩んでゆくのです。

永井さま_夢_額

永井さま_夢_額2

 わたしが考えるジジにとっての不運、それは彼がきわめて美しかったことでした。なぜならその美しさが、自分だけの夢に他者が侵入するきっかけになってしまったからです。少女装をして目を閉じるジジ。彼は眠っているのでしょうか、あるいは——侵入者を拒絶しているのでしょうか。

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永井さま_螺旋_額

 丁度、塔の窓の格子を通して差し込んでゐる朝日がジジの身體に當たつてゐたので、ジジは眠つている一匹のしなやかな縞馬のやうに見えた。
(堀辰雄『羽ばたき』より)

 キキによってついに発見されたジジは、おだやかに眠っていました。その身体は朝日に煌めきながら、菫色と青色の夢に混じり合い、溶けています。少年たちの夢は身体の輪郭をも、あいまいなものに変えました。

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永井さま_縞馬_額

 仲間たちと一緒に夢見ていた「ジゴマごっこ」の夢を、ジジはほんとうのものにすることを選びました。つまり、皆んなで見ていた夢をたった一人で見ることにしたのです。孤独という霧のたちこめる道です。でも、そんなことはジジにとって些末なこと。起きていても、眠っていても、ジジが一番守りたいものは夢と現実のあわいに在るのです。そんなあいまいで崇高な”二重の”領域を、永井健一氏は巧みな筆致で顕現させています。

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永井健一|画家 →HP
大阪大学文学部美学科卒業後に作家活動を開始。個展や企画展等で作品発表をしながら、イラストレーターとしても活動している。画中の人物は、夢現に漂う叢雲の中で願いや想いを折り重ねて結晶化する。book opusとして絵画に詩や写真を織り交ぜた作品も制作している。

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00_通販対象作品

作家名|永井健一
作品名|夢の中での飛翔

アクリル・鉛筆・色鉛筆・木製パネル
作品サイズ|27.3cm×22cm
額込みサイズ|37.3cm×32cm
制作年|2021年(新作)

永井さま_夢

永井さま_夢_額

永井さま_夢_額2

00_通販対象作品

作家名|永井健一
作品名|螺旋降下

アクリル・鉛筆・色鉛筆・アルシュ紙
作品サイズ|8cm×10.5cm
額込みサイズ|27cm×22cm
制作年|2021年(新作)

永井さま_螺旋

永井さま_螺旋_額

00_通販対象作品

作家名|永井健一
作品名|縞馬

アクリル・鉛筆・色鉛筆・アルシュ紙
作品サイズ|8cm×13.5cm
額込みサイズ|27cm×22cm
制作年|2021年(新作)

永井さま_縞馬

永井さま_縞馬_額

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