見出し画像

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|緑煌めくヒルデガルトの春

 緑豊かなラインラントの貴族の家に生まれたヒルデガルトは、8歳で修道院に預けられた。本共同企画展のメインヴィジュアル「少女ヒルデガルト~小さな羽の旅立ち」でくるはらきみが切り取ったのは、幼いながらも将来への一歩を踏み出す決意に満ちた少女の得も言われぬ表情だった。

 ヒルデガルトが成長して立派な修道女となり、ドイツの厳しい冬を乗り越え、植物園での植物たちとの感動の場面を描いた「春の再会」。たおやかな立ち姿の彼女が手を差し伸べる相手は、明るい緑色のフェンネルの精。ヒルデガルトはアニスに似た独特な甘い香りを放つフェンネルを、心身を健やかにしてくれると大切にした。

 その下には眠そうな目をこするタンポポや、可憐なニオイスミレ。飛び立つ青い鳥を見送るフレンチタラゴンの精や、ホップの蔓、まぁるい株から小さな顔をのぞかせるルバーブたちがヒルデガルトの祝福を待つ、希望に満ちた春の一幕。

 「愛の神託」の花言葉を持つタンポポに、薬効の多さからイシャイラズとも呼ばれるキランソウ。陶器の様な質感の少女の顔をした草の芽が眩しそうに腕をかざす姿は、まるでくるはらきみの人形そのもののような立体感だ。

 春を迎え感極まって踊り出すのは、無重力のステップを誇るスミレのダンサーたち。霧とリボンでも大人気の菫色と緑の配色のコントラストがひと際印象的だ。

 くるはらきみとヒルデガルトの創作活動に共通するのは、リアルな自然観察の体験に根差した確かな眼差しではないだろうか。修道院に入るために故郷を離れたヒルデガルトと、東京を離れて長野で制作活動に専念する、くるはらきみの覚悟とが、時空を超えて共鳴しているように感じられる展覧会だ。

会場風景|霧とリボン

くるはらきみ|画家・人形作家 →Twitter
東京生れ。幼い頃より自然のある場所に憧れる。大学では油彩を専攻しながら独学で人形制作を始める。2000年に長野県に移住。季節の移り変わりを身近に感じながら制作活動をしています。くるはらきみ & 影山多栄子二人展《夏の夜》(2019年・霧とリボン)ほか、個展、グループ展多数。

江口理恵|音楽ディレクター・翻訳家 →Instagram 
レコード会社の洋楽部で海外渉外業務を経て、クラシック制作ディレクター。クラシックのコンピレーション・シリーズで「日経WOMANウーマン・オブ・ザ・イヤー2006」ヒットメーカー部門受賞。現在はフリーで音楽ディレクターや音楽関連の翻訳業務を行っている。



作品販売期間
【7月9日(土)23時~11日(月)23時】

作家名|くるはらきみ
作品名|春の再会

油彩・キャンバス
作品サイズ|33.3cm×24.2cm
額込みサイズ|42.3cm×33.3cm
制作年|2022年(新作)

作家名|くるはらきみ
作品名|草の芽

油彩・キャンバス
作品サイズ|13.5cm×12.8cm
額込みサイズ|21.9cm×21.2cm
制作年|2022年(新作)

作家名|くるはらきみ
作品名|春一番のダンス

油彩・キャンバス
作品サイズ|10.9cm×10.5cm
額込みサイズ|17.6cm×17.6cm
制作年|2022年(新作)

この記事が参加している募集

#オンライン展覧会

17,160件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?