鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《2》|小さな夢の痕跡
Text|嶋田青磁
暗闇に浮かび上がるのは、小さな夢の痕跡。
少年はたしかにそこにゐて、夢を見ていたのです。
今秋の『羽ばたき Ein märchen』オマージュ展に際し、鳩山郁子氏による4点のイラスト作品が発表されます。菫色の小部屋には、まるでジジ扮する怪盗ジゴマが残していったかのような、アイテム(手がかり)の数々。不在の少年たち、その輪郭を、これらの”証拠品”を頼りに解き明かしたくなりませんか。
夢を駆け抜ける少年のポケットには、いつもさまざまな宝物が入っています。「ジゴマ・キャラメル」は、きっとそのうちの一つに違いありません。口に含めば甘やかなお菓子も、ジジやキキたちにとっては毒薬にさえなり得るのです。「死」は、キャラメルと同じくらい甘美でなければ。
「ジゴマ」の名前が刻まれたマッチ。ひとたび擦れば、少年たちの目には、財宝の眠る洞窟や、真夜中の美術館がぼうっと浮かび上がるでしょう。けっして音を立ててはいけません。歩くのだって、ポオリン探偵に見つからないよう、抜き足差し足で。
夢を見る者は、暗闇に浮かぶ仄かな灯り——夢に吸い寄せられる蟲のようなものでしょうか。飛翔する彼らにとって死(落下)というのは恐るるに足りません。あのイカロスだって、太陽に近づきすぎて墜落してしまったのですから。夢と死はつねに、隣り合わせになっているともいえませんか。
髑髏をかたどった二つの骰子、今晩はいくつの目が出るのでしょう。卓の上でこれらを物憂げに弄ぶ少年の姿が、燭台の小さな灯りに照らされ影となっているさまが、思い浮かばれます。もしもゾロ目が出たら、何をしてやろうか……? 少年はジゴマがおこなっていた悪事をひとつひとつ振り返り、深い夢想に沈みます。
少年たちの見た夢の断片は、怪盗の時間たる夜に彷徨い、やがて菫色の小部屋へと辿りつきました。わたしたちはこれらの欠片を組み合わせ、ひとりの少年の姿を見つけようとします。
けれどそれはほんとうに、ジジでしょうか?
いつの間にか、わたしたちは鳩山郁子氏の筆による魔法にかかり、記憶の海に迷い込んでしまいました。かつて怪盗や探偵がほんとうに存在していた頃、空想に瞳きらめかせる少年——この少年は、いったい誰なのでしょうか?
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鳩山郁子|漫画家・イラストレーター →Official Blog 『鳩小屋通信』
近刊に堀辰雄の初期ファンタジー小説をコミカライズした『羽ばたき Ein Märchen』(KADOKAWA / 第24回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)そのほかの著書に『寝台鳩舎』(太田出版 / 第21回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)『エルネストの鳩舎』 『カストラチュラ』(青林工藝舎)『スパングル』 『ミカセ』(復刊ドットコム)などがある。
twitter:@IkukoHatoyama
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【公開中】本記事以外の鳩山郁子先生の新作イラスト作品
(11/24〜会期後半にも新作イラストが公開されます)
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作家名|鳩山郁子
作品名|[ジゴマの夜]シリーズ/A. ジゴマ・キャラメル
不透明水彩・ポスターカラー・耐水性インク・ラメ粉・デットストックわら半紙・ケント紙
作品サイズ|4.8cm×2.5cm
額込みサイズ|11.5cm×9.3cm
制作年|2021年(新作)
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作家名|鳩山郁子
作品名|[ジゴマの夜]シリーズ/B. アリュメット
不透明水彩・ポスターカラー・墨汁・ラメ粉・ケント紙
作品サイズ|5.9cm×4.8cm
額込みサイズ|9.2cm×8.2cm
制作年|2021年(新作)
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作家名|鳩山郁子
作品名|[ジゴマの夜]シリーズ/C. 蝋燭立て
不透明水彩・ポスターカラー・墨汁・ラメ粉・ケント紙
作品サイズ|5.9cm×4.7cm
額込みサイズ|13cm×11.8cm
制作年|2021年(新作)
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作家名|鳩山郁子
作品名|[ジゴマの夜]シリーズ/ D. ふたつの骰子
不透明水彩・ポスターカラー・墨汁・ラメ粉・ケント紙
作品サイズ|5.5cm×5.5cm
額込みサイズ|9.2cm×13.4cm
制作年|2021年(新作)
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