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菫色の実験室vol.5|菫色×スミレ属

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霧とリボン 直営SHOP 5周年記念 & 鉱物Bar by 鉱物アソビ オープン記念連動企画展《菫色の実験室vol.5〜菫色×スミレ属》|2020.8.22~30 *8/24~2… もっと読む
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#物語

菫色の実験室vol.5|合田ノブヨ|ヴァイオレットの森

 *  夕刻、空の色が一年を通して菫色を帯びる土地に、私たちの実験室はありました。木々の鬱蒼に囲まれたそこが、いつから存在して、なぜ日夜「菫色」を研究しているのか、所属している研究員たちは何名で、彼女ら/彼らはどこからやってくるのか——いまだわかりません。なぜなら、実験室を訪れる度、そこはいつも無人で、誰にも会ったことがないからです。  しかしそこにはいつも、研究員たちがいた気配、実験をした痕跡が、花びらに光る夜露のように、散りばめられていました。会ったことのない研究

菫色の実験室vol.5|DAY 1

 鉱物Bar by 鉱物アソビ(実店舗・吉祥寺) & 霧とリボン(オンライン)連動企画《菫色の実験室》——ここ「MAUVE CABINET」でのオンライン展覧会が本日よりスタートしました。  鉱物Barにて特製メニューを堪能しながら、オンライン展示をお楽しみ頂けましたら幸いです。配布中のDMにはQRコードが付いていますので、カメラで読み取って頂ければ、すぐにここに飛ぶことができます。  「MAUVE CABINET」カリスマ店員レミーちゃんも、本展では実験室の一員として

菫色の実験室vol.5|佐分利史子|夏の夜の惚れ薬『恋の三色スミレ』

 今日は、菫色の時間が訪れる少し前に実験室の玄関ホールに到着しました。不思議なことに、いつもはそこはかとなく張り詰めている空気が、ほんの少し緩んでいます。居住まいを正す菫色が訪れるまで、意外にも安穏としたひとときが流れているようです。  スミレの香りに誘われて、長い廊下を歩きはじめました。  ここを訪れる時は決まって、白衣に合わせた菫色と白のコーレスポンデント・シューズを履いています。カンガルーのしなやかな革が足先をきっちり包み、靴底もすべらかにスミレの群生に触れていき

菫色の実験室vol.5|花モト・トモコ|Viola Kitty

 ひとけのない実験室の長廊下から、動物の鳴き声が聞こえるのは非常に珍しいことです。過日出会った妖精猫たちは、姿は見せても、鳴くことは決してありませんでした。  近づいては遠のく鳴き声を早足で追いかけます。スミレの香りも心なしか駆け足で過ぎてゆくようです。空気の質感もソリッドになり、感覚がだんだんと研ぎ澄まされてゆくのを感じた時、パタリと鳴き声は止み、反対に香りの方は、存在を主張するように濃く深くなりました—— * * *  そっと扉を開けました。  そこには、真っ白な

菫色の実験室vol.5|メリリル|菫色のレシピ

 夜になり、深まる静寂とは対照的に、廊下の先から、心浮き立つような甘やかな香りが流れてきました。研究員たちの折々の日誌の走り書きで、噂だけは知っていた例の実験室が近づいてきたようです。寡黙な雇い主がいつになく饒舌になるのですから、さぞ魅惑の実験が行われているに違いありません。  ここ菫色の実験室では、常に礼儀正しくを心に留めておりましたが、扉奥からもれくる甘やかで香ばしい匂いを前に不覚にも職務を忘れ、恥ずかしながら極めて無遠慮な所作で扉をくぐりました。 * * *

菫色の実験室vol.5|鉱物アソビ|菫の秘薬

 一面が菫色に染まる時刻——それは、アブサン色の葉々の表面に、菫色の微細な結晶が舞い降りる時間帯。光の微妙な加減で、その交差が艶やかな天鵞絨に見えたり、あるいは、藻が揺れる水流を思わせたり——  刻々と表情を変える森閑の森を眺めながら、今日も実験室に到着しました。  玄関ホールに入るとすぐ、スミレの香りに混じって、薬草を蒸留したエキゾチックな匂いに誘われました。訪れるべき実験室は近いようです。  ——その扉はすぐに見つかりました。  香りがソリッドになった瞬間に現れた

菫色の実験室vol.5|アンヴァンテール|菫嬢のブドゥワール

 今日の実験室へは、白衣ではなく、アンティークのティドレスを纏って訪問するようにとの指示でした。ルネ・ヴィヴィアンの古い写真を彷彿とさせる、総レースの白——長廊下のスミレの群生に、霧が降りるように裳裾が触れてゆきます。  スミレの砂糖漬けの甘い香りを辿ってゆくと、ある扉の前で、少し重めの白粉の香りがふんわりとひらきました。薔薇の優美も含んだパウダリーがレース模様の隙間に沈んでゆき、ロマンティックな旅行への準備が整いました。 * * *  旅券を片手に入室したお部屋は