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別れたら次の人

若い頃はもっと感性が繊細だった。独り寡の時代ばかりだったくせに「別れ」という言葉に敏感だったし、妙なセンチメンタルを覚えていたものだ。

ある日、当時お世話になっていた取引先の人と飲みに出かけた。

腹ごしらえをした後、先方さんが行きつけのスナックで飲んでいた。

多分、歳は40くらいの愛想良いママさんと狭い店内で他愛のない会話。

ほどなくカラオケが始まる。

あくまで仕事の付き合いだから、勧められて初めて選曲に入る。

仕事用に覚えた流行歌ばかりを歌う。ただ、三人しか居ないから、順番がすぐに回ってくる。

仕事用の歌はそんなに豊富なレパートリーは無い。

割にメロディが簡単な歌として「別れても好きな人」を選んだ。

にこやかにママさんがマイクを合わせて来た。

サビの「別れても…好きな人」に差し掛かると、ママさんが歌詞を被せてきた。

「別れたら…次の人♪」

後から聞いた話、ママさんは離婚した直後だったらしい。

間の悪い選曲だったかもしれない(笑)もちろん悪意などなかったけれども。

でも、別れたら次の人…って核心を突いたフレーズだよなぁと今この歳になって思う。

いちいち悲しむのが面倒くさいと思えたなら、それはそれで良い別れなのかもしれない。