#読書録<痛快!コンピュータ学>

こんばんは。

今回はTRONプロジェクトで有名な坂村健氏の著書「痛快!コンピュータ学」の読書録について綴っていければと思います。

書評と言えるほどのものではないので、あくまでも個人的な発見や未来の自分が見返したときに何かのヒントになればいいというスタンスですので、もしお目にかかられた方はお手柔らかにお願いします。
※建設的なご指摘は歓迎です

まずは著者紹介。

坂村 健(さかむら けん、1951年[1]7月25日 - )は、日本のコンピュータ科学者、コンピュータ・アーキテクト。工学博士(慶應義塾大学、1979年)、東京大学名誉教授、INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長[2]。専攻での研究内容はダイナミックアーキテクチャ[3]だが、自ら提唱したTRONプロジェクトにてリーダー、またアーキテクトとして多種多様な仕様を策定した。
<引用元>
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)

実は以前に岩波新書の「ユビキタスとは何か」にて一度著者の書籍を読んだことがあるのですが、コンピュータ関連の大御所?みたいなイメージです。
※未だに学術関係で実績を残された方はぱっと見で何がすごいのか説明できない

引用にもありますが、著者の最もわかりやすい(投稿主調べ)ではやはりTRONプロジェクトでしょうか。
国産の組み込みOSで世界シェアはなんと約60%ほどらしいです。
<参考>
「主張しないOSだったから世界に広がった」TRONの生みの親・坂村健が語る
https://news.yahoo.co.jp/feature/1686

因みに組み込みOSとは汎用OS(Windows,Linux)と異なり、特定の目的のための機能を持つOSのことです。
家電等に搭載されていることが多いですかね。

それでは、本題に入りたいと思います。

本書は単行本としては1999年で文庫版では2002年と、コンピュータ関連の書籍としては古典に分類されるのではないでしょうか。
テクノロジー関連は移り変わりが早く、数年前のテクニックがもう使い物にならないなんてこともよくある話ですが、本書はすぐに使える小手先のテクニックではなく、歴史を紐解きながら平易な表現をもってコンピュータの根幹の技術とその背景について語られています。
実は、テクノロジーの進化を支える根幹技術は今でも基礎仕様になっていることも多いのです。
例えば、現代コンピュータの最も基本的な「プログラム内蔵方式」は昔にノイマンが提唱した頃から全く変わっておらず、今でもほとんどのパソコンがこの方式を採用しています。
つまり、本当の意味でテクノロジを知るということは、コンピュータとは何か?ということを知ることが大切なのではないでしょうか。
本書はそんな命題に対して、ヒントを与えてくれると思います。

上記のような前提を踏まえ、本書のポイントは大きく2つと考えております。

1つが、「コンピュータ関連の古典として、当時語られた未来像と現代世界との答え合わせ」です。
答え合わせを行う理由としては、昨今VUCAと呼ばれる時代になりつつあり、現在の世界情勢もコロナを筆頭に大きく揺れ動いています。
その中で、喧しく未来について予測する書籍が溢れていますが、
未来について考えるためには、歴史を知り、どのように未来を予測し、結果としてどうなったのか。その要因は何だったのか。
ここから考えていくべきではないかと考えたためです。

2つ目が、「コンピュータの歴史を大まかに知ることができる」という点です。
実は一般の人に理解できるような内容でコンピュータの歴史について書かれた書籍はそこまで多くはありません。
あるピンポイントに絞った解説が主になっていたり、技術的な話ばかりで背景がなかなか見えてこなかったり…
そういった面からみても、本書はコンピュータについてそこまで詳しくない方でもすらすらと読み進められます。
技術書によくある読み手を選ぶような本ではありません。

ぜひ一度手に取ってもらえればと思います。

さて、1つ目の「コンピュータ関連の古典として、当時語られた未来像と現代世界との答え合わせ」について、私が本書を読み進めていた際に発見した部分について、ご紹介できればと思います。

・何でもできるけれども、使いにくいコンピュータから、用途限定の使いやすいコンピュータへ変わっていく。
今のパソコンはどこかで頭打ちになり、もっと優れたデバイスが出現する。

⇒これは現代でいうスマホに該当すると考えてよいでしょう。
統計的にも、2019年における世帯の情報通信機器の保有状況では、「モバイル端末全体」(96.1%)の内数である「スマートフォン」は83.4%となり初めて8割を超えた。 「パソコン」は69.1%
〈引用元〉総務省 情報通信白書より
上記の通り、著者の予測は現実のものとなっています。

・今はコンピュータかテレビやビデオを貪欲に取り込んでいるが、今後は逆転し、家電製品や道具にコンピュータやインターネットの機能が入り込んでいくでしょう。

⇒いまでいうIoTでしょうか。
本書を読む限り、当時はパソコンにどんな機能を持たせるか、あるいはどれだけ利用用途を広げていけるかが主だったようです。
実際、現代ではあらゆるものがインターネットにつながるようになるIoTがキーテーマにもなっています。

他にも多々ありますが、長くなりそうなので詳しくは実際に本書を読んでいただけますと幸いです。

さて、2つ目「本書はコンピュータの歴史を大まかに知ることができる」についてです。

コンピュータとは元々は計算するための機械(※conputerの元々の意味も計算機)でしたが、クロード・シャノンの情報理論によってすべての情報は0と1で表すことができると発表され、単なる計算機から汎用的なコンピュータに変貌します。
この0と1で表すことができる例としては、モールス信号が当てはまります。(短点と長点の2種類で情報を表す)

また、コンピュータの開発が加速した要因として最も大きいのが第二次世界大戦の勃発です。
戦争が開戦すると、大量の武器毎に弾道を計算する必要があり、そのためにアメリカは人材を集め、最終的に世界初のコンピュータと呼ばれる「ENIAC」を完成させました。(※完全自体は終戦後の1946年)

なお、我々の生活で欠かすことのできないインターネットの原点もきっかけは戦争にあります。
米ソ冷戦当時あらゆるものをコンピュータで管理することが始まっていたアメリカは、中央の大型コンピュータが破壊されてしまうと、全部が麻痺してしまう(スプートニクショックによってそれが現実味を帯びたのも大きな理由)、それだとまずいということで、コンピュータを各地に分散させ、攻撃を受けても別のコンピュータで処理を続けられる仕組み。そのために作られたのが世界初のインターネット「ARPAネット」です。(当時は情報が多く集められていた大学ごとに繋がれていた)

上記にように技術革新の特異点には必ず戦争がありました。
これは何も上記に挙げたものだけでなく、ほかの多くのテクノロジにも言えることです。
テクノロジーと戦争ではシナジー効果が大きく働くのです。

他にも、本書では、ノイマンによるプログラム内蔵方式の誕生やIBM全盛期からマイクロプロセッサ登場によるIBMの没落、インテルやマイクロソフトの勃興、アップルのマッキントッシュが世界初でGUIを採用したり、その背景にエンゲルバートやアラン・ケイの「ALTO」があったり、、
あらゆる歴史的なポイントに触れらています。
現代の生活を支えるコンピュータがいかにしてここまで便利になったのかが大まかに理解することができます。



最後にまとめると、
坂村氏が20年前に見たビジョンはおおむね現実のものとなっています。ただし、それは単に技術に詳しいからというのに留まらず、著者のあとがきにもありましたが、基本原理・理論とそれらの背景にある思想がとても重要だそうです。そこには様々な時代背景やトリガーとなる事件等もあります。
それらすべてを踏まえて、我々が生きていく世界を考えていくべきだということでしょう。




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