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掌編小説【ハクモクレン】

お題「木蓮」

「ハクモクレン」

「あたしは、桜よりも白木蓮が好きだね」
おばあちゃんは古くなったセーターをほどきながら言った。
「ハクモクレンてなに?」
僕は縁側でおばあちゃんがほどいた毛糸を巻き取りながら聞いた。
「白くてきれいな花だよ。白無垢のお嫁さんみたいに。それが大きな木いっぱいに咲くと、そりゃもう見事でね」
「ぼく、見たことある?」
「この辺りには咲いてないねぇ。でもちょうど今頃どこかで咲いてるはずだよ。でも三日くらいで散ってしまうの」
おばあちゃんはコンコンと咳をした。
「寒いんじゃない?布団に戻ろうか」
「そうだね・・・」
僕は半分になったセーターを受け取って、おばあちゃんを奥の部屋に連れていった。
母に言われたとおり横になる前に薬を飲ませ、寝転んだおばあちゃんに布団をかけると、軽く体重をかけて身体と布団の隙間をふさいだ。
干したばかりの布団からは乾いた草みたいな匂いがする。
縁側に戻った僕は柔らかい毛糸をさわりながらハクモクレンを想った。
白い着物の小さなお嫁さん達が、青空を背景にスズメみたいに木にずらっと並んでいる。
でも強い風が彼女達の着物を揺らし、お嫁さん達は笑いながら飛んでいってしまった。
襖の奥からコンコンと咳が聴こえる。

おわり (2020/4 作)

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