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詩みたいな【小さな】#シロクマ文芸部

お題「誕生日」から始まる物語

【小さな】(485文字)

誕生日だから好きなもの選んでいいよ
おもちゃ屋で、母にそう言われた
わたしはお人形が欲しかった
貸してもらってばかりだから
わたしだけのお人形とおともだちになりたい

おもちゃ屋の棚にはたくさんの人形が並んでいた
フリルがたくさん付いた赤いドレスのお姫さまも
とてもきれい…
でも手をのばしかけてやめた
お姫さまはツンとして、わたしの方を見ない

棚をゆっくりと見ていく
お人形はみんなきれいすぎて
わたしとおともだちになってくれない
母が、まだ迷ってるの?と聞く
うん
早く選ばないと買ってもらえなくなるかな
わたしはおしっこに行きたくなる

その時
棚のいちばん端っこに小さなお人形を見つけた
飾り気のないオレンジ色のワンピースを着た女の子
髪は茶色でまっすぐさらさら
その子はわたしに向かってニコッてした
手の平くらいの大きさしかないお人形さん

この子にする
母が、もっと高いのでもいいのよと言う
誕生日なんだから…
わたしは首を横に振る
この子がいい
もうおともだちになった

母はホッとしたような顔で
あんたはちっちゃいのが好きねぇ、と笑った

好きなものを買ってもらえるのは誕生日だけ
小さなものは、母もわたしもホッとさせる


おわり

(2023/11/11 作)

小牧幸助さんの『シロクマ文芸部』イベントに参加させていただきました。

このちいさなお人形さんは、実際におもちゃ屋さんで出会った子を思い出して書きました(*´ω`*)


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