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嘘の素肌

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「何者でもない僕に付加価値を与えてくれるのは、いつだって好奇心旺盛な女性達でした。」 桧山茉莉、二十七歳。仕事や人間関係に不自由なく生きてきた"何者でもない男"を取り囲むのは、…
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#絵

嘘の素肌「第27話」

嘘の素肌「第27話」

 喫煙所から出た後は松平に適当な理由を告げ、VIPルームには引き返さなかった。いずみのマンションへ戻る気にはなれず、他人との交流を遮断し今は制作に打ち込みたい心地だったので、三年前から借りている立川のアトリエ代わりの安アパートに大人しく帰った。数時間後、ゴミ屋敷に近い状態の一室で僕が筆を握ると、松平から「刺青と巨乳でロイヤルスイート。半分桧山の尻拭い」とLINEが届いた。何が尻拭いだ。口では偉そう

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嘘の素肌「第43話」

嘘の素肌「第43話」

 音信不通だった松平から突然「箱根行かん?」と誘われた。五月の風は口いっぱいに含むと病気になりそうで、僕はできる限り息を殺して松平の隣を歩くことにした。

 目的地が箱根の理由は彫刻の森美術館にあった。松平の狙いは当美術館敷地内で別館が設けられているピカソ展にあるらしく、かつて和弥が家族で行ったと聞いてから気にはなっていた。

 四か月ぶりの再会に、松平は開口一番「いずみからちょっとは聞いてたけど

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