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【記憶を記録する】ある兵士の記憶⑤

「このお話(記憶)をぜひとも書き留めて(記録)しておきたい! いや、おかなくては!」そんな思いから【記憶を記録する】という活動をはじめました。

「聞き書き」が基本ですが、今回の「ある兵士の記憶」は、とある方の手記をリライトさせていただきました。

最初にその手記を読んだとき、当時戦地にいた若者たちと敵の若い捕虜とのやり取りを生々しく綴った文章にかなりの衝撃を受けました。それが、今回投稿する一文です。手記を書かれた方は相当な文章力をお持ちだったのでしょう。その方の息子さんによると、とても「お話上手」な方だったとのこと。それも頷けます。

「ある兵士の記憶」は、今回で了となります。次回はいつも通り旅の記録をアップする予定ですが、少しずつでも「記憶を記録する」活動を続けていきたいと考えています。

「ある兵士の記録④」はコチラ↓

5

若い捕虜は死人の様な青ざめた顔を伏せかすかに身をふるわせて部屋の隅にうづくまって居た。今数刻とも立たないうちに殺されるといふことも知ってゐるのだらうか?右足の脛に痛々しく血がにじんでゐる。人間の最後の呼吸とでも云ひたい。荒々しく上半身を縛った細縄が後手にしばり上げた二の腕に喰へ込み其の苦痛に絶え兼ねては時々弱々しく細い肩を上げ下げして居た。屋根を●る月光が寒々と其の若い捕虜の姿をつつんでゐる。何を考へてゐるのだらう?

 バカに静寂だ。風一ツない。そして星も月も美しかった。

 午後の激しい戦闘も夢の様に忘れられて茅屋の中に焚火を囲んで顔を赤く染めてゐる兵達の顔は皆つかれきってゐた。焚火の温さがほのぼのと身をあたため眼をつむって遠き故郷の思出に吾を忘れてゐた。

 突然「オイ!團子が出来たゾ」

 例の入岡上等兵がポーポー湯げの立ってる支那釜を熱さうにかかえてばたばた入って来た。

「元気を出せよ。何んだ気の抜けた貴様達の生面(イケヅラ)は…。」

 相変らず悪口をたたく入岡上等兵に感謝しつつ釜を囲んで温い團子をむさぼり喰った。それは安福寺の戦闘に命がけで挑發して来た麦粉の餘りを粉味噌と一緒に煮たものだった。空腹には總てが珍味だった。

 突然立上がって入岡上等兵が團子を三ツ、四ツ棒に差し込んで若き捕虜の傍に行き鼻先に其の團子を突出した。

「おい、貴様の命も長いことぢゃない。冥土の御馳走だ團子でも喰って迷はず往生シロ。」

 勿論若き捕虜に東北辯の通じる理は無かったが顔を上げた捕虜は少しく口もとをゆがめてかすかに首を振った。

(人道的に問題となる表現があったため、原文の一部を削除させていただきました)

 外は寒い。星も月も美しい夜だった。

 ・───宣昌攻略戦古老背ニ

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