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【願いの園】

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これは種の営み 【不定期更新】 藤田知仍は、気づくと不思議なところにいた。 あまりに突飛な場所ゆえに夢だろうと結論付けたけど、そこに一人の青年が現れる。 塾で知り合い、今では疎遠…
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2022年8月の記事一覧

【願いの園】はじめに

【願いの園】はじめに

ヒトが楽を求めることはおそらく、水が低きに流れるのと同様に法則なのでしょう。巨視的に見れば常に同じ向きで、しかし微視的には逆もあります。

とはいえ水は循環します。様々な経路を辿っていつしか海に合流し、つまり広く行き渡ると、太陽から大きなエネルギーを受け取って一部が空へと上がっていきます。それは更に広がった状態への移行です。そうして目に見えないほど小さくなったそれらは、その熱量で激しく飛び回り、他

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【願いの園】第一章 00

【願いの園】第一章 00

ザラザラと摩擦のある机の上を氷のように冷えてつるつるした手で撫でるのが習慣になっている。やめた方がいいんだろうけど……と苦笑しつつ、リュックを背負った。

「じゃあね~、知仍~」と隣の席の友達が手を振って、私は小さく手を振り返しつつ口の動きだけでじゃあねと答えた。

教室を出て顔を顰める。今は七月上旬であり、その蒸し暑さは午後四時でも衰えない。校門を出てすぐ折り畳みの日傘を差し、私は足早に駅へと向

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【願いの園】第一章 01

【願いの園】第一章 01

いつも通りの帰路。交通量の多さと蝉のせわしない声が夏の暑さを嵩増しし、地球は私を蒸し焼きにして食べるつもりなのかという見事な戯れ言を発明した辺りで地下に下りた。少し冷房が効き過ぎてるのはいつものこと。最寄り駅に到着した。

 起点だから電車は待機していた。人が少ない時間帯で端の席に座れた。程よい冷房で熱った身体を休ませるようにじっとしていたらアナウンスがあって、あっという間に電車は動き出した。代わ

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【願いの園】第一章 02

【願いの園】第一章 02

ファンタジーを目の当たりにした。いや現象には必ず原因があるのだから相応の理屈が存在するはずだ。それがファンタジーに見えてしまうだけで。しかしそれは彼を神様と認めてしまうことにも繋がりかねず、それはなんだか心理的な抵抗があった。未知の科学を扱う宇宙人の方がずっとマシだ。実際その方が現実的だ(たぶん)。

結局受け止め切れないまま家の最寄り駅に到着した。これ以上悩んでも答えを出せそうにないので、いった

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