うぐいす

3月にはつたなかったうぐいすたちの鳴き声にも日に日に磨きがかかり、今日の一声は、なんとも見事なもの。ホーホホ、と長く前置きをしてからホケキョ、と軽やかに、たまに転調なんかも入れつつ朗らかに囀っている。食材を買いに通りへ出ると、ついこないだまで鋭意営巣中、と忙しげに軒下に草を運んでいたつばめのマイホームもようよう完成しており、矢のように巣から飛び出て、車も人も少なくなった通りをのびのびと飛び回っている。散歩がてら海辺に出ると、浜に干されているワカメがさわさわと鳴り、道端には気づけばカラスノエンドウが、ふっくらとふさを抱いていた。

私の行動半径は、狭い。時節柄もあるが、もともと広くはない。けれど、毎日歩く同じ道にも日々、色々な変化が見つかる。窓から吹き込む風の匂いも、風向きによって潮の匂いが濃かったり、薄かったりする。そういう些細な変化を見つけることが楽しみでもあるけれど、やっぱり友達と喋ったり笑ったり、卓を囲んだりしたいなぁとも思う。

知り合いのいない新しい街に越してきて、ちょうど1年。最初は新しい友達ができればと飲み屋さんにも通ってみたけれど、続かなかった。でも(でも、は変だけれど)毎朝きっかり8時になると、近所のお寺の鐘が鳴るのだ。以前、お坊さんたちがお経を唱えながら、鐘を打つ姿を見たことがあった。きっと、それを聞いて安心する私のような人もいるだろうな、と思う。

ウーゴットンゴットンと唸りつつ通り過ぎて行ったあの電車の運転手さんも、知り合いじゃないけど今日もいてくれることだし、と安心して、さっき買ってきたキュウリを切る。トントンと、まな板がいい音をたてる。

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