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夢野久作『ドクラ・マグラ』を読破した。

『ドグラ・マグラ』が読み辛い、精神異常を起こす等々感想を見ても、日本近代小説の独特なクセになれていないだけだろうと共感出来なかったが、これは確かに読みなれない作品だった。
その感想を述べたいと思う。

出だしから遺書まで

意外にも現代風

出だしは意外にも現代風で、昨今の漫画に慣れた人達でも容易く想像できるような引き込まれるスリリングな演出がされていた。少し過激な影が見え隠れするが、婉曲も特になく分かりやすい。

中盤、記憶喪失の主人公は自分が誰かを思い出すため、若林博士に色々なことを試される。
その中で若林博士が敬愛していた正木博士の遺書を読み始めるのだが、その遺書がとてつもなく難読であった。

「キチガイ地獄外道祭文」


正木博士は大学を飛び出し、自分の研究の正しさや精神病を患った人への治療を考え直せなどの思いをちょんがら節に似た歌にし、歌いながら全国を行脚する。それが「キチガイ地獄外道祭文」である。
この祭文、「あーーあ、チャカポコ」からはじまるフレーズが何回も、何ページにも渡っている。
もう一度言うが、これは遺書だ。
この部分は1ヶ月弱かけて読み終えた。

本を読みながら音楽を聞くのはあまり好きでは無いのだか、こればかりは音楽が無いと乗り越えられなかった。
もし、『ドグラ・マグラ』を音楽に乗せてなら読めそうと思う人がいたなら、チルアウトな音楽をおすすめする。YouTubemusicなどサブスク音楽アプリがあると、最初と似た曲を永遠に選曲してくれるためとても便利だ。

「キチガイ地獄外道祭文」の題名通り、それなりに過激なことを歌っているし、内容があるのかないのか、けれども、入り込み過ぎると心を持ってかれて狂気に落ちそうな、そうか、これが「日本三大奇書」と呼ばれる所以かと思い知った。

少し、話は逸れてしまうが「ドグラ・マグラ」をググると「ヤバい」と出る。
調べて見ると大体この祭文がヤバく、リタイアしたというのが多かった。

終わらない遺書と茶番劇


祭文を越えようと、遺書は終わらない。
まだまだ「ヤバい」は終わらない。
活弁もどきが始まったかと思えば、突然チャンバラ時代劇になった時には、目が文字を追うのを止めた。斜め読みをしたいという欲求も湧いてきた。

けれども、読みながら「この遺書はとても重要ではある」と感じた。
久作が、意味も無しにこんな遺書を作らないだろうし書かないだろう。書くのも狂気に落ちそうな遺書が意味のないものなんて、骨折りでしかない。
それにここでやめたら、日本近代文学好きの名が廃ってしまう。気持ちを追い込み、チルい曲を耳に漂わせて一生懸命文字を追った。

実はこの遺書、主人公を匂わせる点だけ大まかに掴んでおけば、全く問題なしであった。
この事実は遺書を読みきった後に分かる。

しかも、読みきった後に書いた本人である正木博士に茶番呼ばわりされる遺書。その後ろにいる久作にまで裏切られた気分だ。その茶番に狂わされている私を含めた読者たち。地獄絵図である。

怒涛の終盤

遺書を越えた先のサスペンスホラー


遺書を越えた後は普通の小説になる。
遺書が本編の2/3程度持っていっている為、残りの1/3の怒涛の追い込み感はサスペンスドラマを観ている迫力のそれであった。
内容は、ホラーでファンタジー寄りだったのは私も驚きだった。サイコホラーと言っても良いかもしれない。遺書さえなければ、ホラーゲームの原作になりそうな感じだ。(R指定は高めに設定をお願いしたい)TRPGのネタにもなりそう。

虚無を感じる達成感

現実味や没入感はあまり無かった。
地の文は主人公であるのに、第3者として主人公を見ている。漫画を読んでいる気分に近い。
私的にはあまり感情移入は出来るタイプの話ではなかった。それが正解なのかもしれない。

どんな趣味にせよ、没入感は非常に重要なものだと思う。それが一番の目的と言っても良い。
しかし、この『ドグラ・マグラ』には没入してはいけないような気がした。
もしかしたら、これはあの絵巻物と同じ代物なのかもしれない。この作品に自分の遺伝子が震わされ、自分でも知らなかった精神の本質に全てを乗っ取られてしまうかもしれない。

これまでにしてきた読書体験とは違う特別な体験が出来て悪くない気分だ。やりきったのに何故か虚無を感じる達成感も良い。

あらすじではわからない特別な読書体験

ネットで調べても『ドグラ・マグラ』のあらすじ、内容をまとめたものは無かったため、書いてしまおうかと思っていたのだが、書き込んだ人たちは口々に「まとめるのは容易ではない」と言う。
その裏に、もしかしたらこの特別な読書体験をしてほしいがために敢えて作っていないのか?と考えて私も内容はまとめない。

あなたが『ドグラ・マグラ』のことを調べてしまった時点で、それはかなり興味があるということに間違いない。
だから、その好奇心をそのままにしておくのは勿体ない。是非、読んで特別な読書体験をしてほしいと思う。

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