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金魚の肺呼吸

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泳ぐこと詠むこと。 水の中から見える世界は狭いか広いか。
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2017年2月の記事一覧

無風

無風

嫋嫋と心地好く居心地のよい
風の吹く日があった。

轟轟と容赦なく
雨風に歩み進むことがあった。

よもや風の攫われることなど
有りはしないと

誰かが謂うだろうか。
唯、不案内であったのだろう。

漸うと知ることができた。

金魚のふん

金魚のふん

金魚のふんが渦を巻く。

水流を描くように
蓄積を垂れながす。

金魚のふんは金魚。
愛しみも哀しみもついてくる。

深きこと

水底に溜まる金魚のふん。
晴れの日、雨の日と
綺麗さっぱり垂れながす。

浅きこと

水面にぱくぱくと訴えては
餌を食べ、空空漠漠と
夢眠る。

金魚の見る夢は金魚のふん。

灯鳥の鳴くころに

灯鳥の鳴くころに

灯鳥の群れが空へと起こすモアレ。
旋回しているのか。
上昇しているのか。
下降しているのか。

夜を開く鳥の聲が地上へと起こすモアレ。
夢なのか。
昼なのか。

枝灯る鳥の鏤める。

最初の夜だろうか。
最後の夜だろうか。

灯鳥の鳴くころに竦む空がある。
織り織りと鳴き紡ぐ聲に縮む旅人がいる。

薄灯りの部屋でドーナッツを齧む。
唇の端から溢れた背徳が、

灯りのない床にぽつり落ちた。

わたしは、その背徳を拾い
清清と屑入れに投げる。

明日は護美の日だからと唇が動く。
明日が護美の日でなければ、

ドーナッツを齧ることはなかった。

ひとは嘘をつく生き物だし、
鏡像を好む。そこに、


わたしがふたりいる。
そこには、写像が与えられ無限が生まれる。
わたしが無限になれば、
あなたも無限になるでしょう。だって、


あなたとわたしは同じものだから。ただ、
ふたりしか生まれない世界なのだから。

温かいものを恋しくいられる朝は、
あと何れくらいやってくるだろう。

春知らせる鳥が、
四丁目先までやってきていると今朝に聞いた。
そのうちに

丁度いいがやってくる。
丁度いいは、暖かくも冷たくもないけれど
丁度いいからいいんだ。

ちょうどいい、ちょうどいいって鳴きながら

夢成らず、ただ泳ぎつづけるしかなくとも
諦めることはなにもなく。

海の際の明るむを繰り返し見遣る。
沈むもの昇るもの敷衍してまで

その価値に魅入られれば、
盲目に溺れてしまうだろう。

それよりも一片の木片を掴む
その手を忘れないでいるのがいい。

川に産まれる

川に産まれる

川は流れて川になる。
川はとごった水溜まりには為れず。

何処知れず杳杳と流れ出づることから始まる。
行き行きて、あはれ排斥すら流る。

何処へ帰るでなく、何処へも流るる川にある。

お了いはまた川と流るるまで。

ふたつのカラダ

ふたつのカラダ

切り取られてゆく景色と、
現れては消えるひとの熱が

身体を奪っていった。
意識と切り離されたそれは、

どこかの駅に置き去りのまま。

だれかの拾うのをどこかの駅で待つも、
待てども待てども

電車は来ない。

月が張りぼてなら兎は何か

月が張りぼてなら兎は何か

どんなにか、

月無しの夜を数えたところで。
どんなにか、

泳ぐ言葉を掬ってみたところで。
思いの丈は変わりはしない。

薄い薄い澱粉紙にくるまれてるつもりで、
水のなかへ飛び込んだ。

そこには何もない。
はじめから何もありはしないと誰が言うなら、
わたしが言う。

型紙を切って月をつくるのか、
誰かの本を切り抜いて張りぼてをつくるのか、
そんなことから始めてみればいい。

月の形をした何かも

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満ち欠けるもの

満ち欠けるもの

変容に没落するもの有り、
慰撫するかのよう月の云う。

それらは天球儀と地球儀くらいのもの。
どこに見ようとも、見る者なくとも

山は、山であり。
月は、月であり。

此処は、此処にあり。

群像

群像

世界は雨が降っていた。
空では、

ありとあらゆる雨が共鳴する。

いつか見た誰かの泣き顔、笑い顔、生まれた顔。
最期の顔。

世界の数だけ雨が降る。
ひとの数だけ雨も降る。

空の群像。

然うして必ず雨は止む。
雨のお了いに待っている。

囀り

囀り

ピアノに遊ぶ小鳥と出逢った。

うっすらとした羽毛の
まだ稚い羽音のようなそれは、

こゝろ静謐と喧騒を嫌う。

雪のち春

雪のち春

ひねもす空を千切る

散り散りと空を降らせ
雪となる

解けてはなくなり
降っては解ける

積もりはしない

春想うひとのあたたかさよ