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EV化における選択肢の重要性

「21世紀に間に合いました」

この名キャッチコピーとともに、1997年に世界初の量産型HV車(現在の表記はHEV)「プリウス」を発表したのは日本のトヨタです。
2005年2月に行われたアカデミー賞に、環境保護に力を注いでいることで有名な俳優のレオナルド・ディカプリオがプリウスで乗りつけ話題になったことは有名です。その後、環境問題に高い意識をもつハリウッドスター達がこぞってプリウスを愛車に加えたとのニュースを知るたびに当時とても誇らしく思ったことを覚えています。
世界的にガソリン車からEV車への移行が急激に進んでいますが、EV化に積極的なヨーロッパに比べ、日本はEV化に消極的に見られているそうです。
しかし、世界に先駆けて環境問題に取り組んだ日本が、「EV化に関しては消極的」と、見られてしまうのはなんだか腑に落ちません。

夕日を見てもの思いにふけるプリウス

バッテリーEV(BEV)だけ推進する違和感

菅元首相は2021年1月18日、国会での施政方針演説で国内販売車のEV化について「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」と表明しました。
国内の新車販売を全て電気自動車(BEV)やハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池自動車(FCV)などの全車電動化に向けて動き出すことになり、ガソリンだけで動く車の新車販売はできなくなるのだそうです。

現在、我が家はバリバリのガソリン車です。
クルマを買い替えるのであれば、電気とガソリンを併用できるHEV車が使い勝手がいいのかな、と考えていましたが、いま世界の流れはBEV車一択のような気がします。新車販売での電動車100%を掲げた2035年、ガソリンと電気を併用するHEV車はどのような立ち位置にいるのでしょうか。
100%電気だけで動くBEV車を選ぶ利点はもちろんあります。けれど自然災害の多い日本の場合、選択肢を広げておくことはとても重要だと思うのです。
日本には日本の地域に合ったEV化が必要です。

とはいえ、あくまでも私個人の話ですが、何の問題もなく元気いっぱいに走る我が家のガソリン車を手放す気にはまだなれず、「EV化に関しては消極的」なのも事実です。

ガソリンに代わる代替燃料

自動車の代替燃料にはどのようなものがあるのでしょう。
調べたところ、天然ガス・メタノール・エタノール・LPG・バイオ燃料・水素があるそうです。いろいろあるのですね。
日本近海に豊富にあるといわれ、一時話題になったメタンハイドレートも天然ガスのひとつです。このニュースを聞いた時には、「ついに日本がエネルギー大国になるの?」と心躍ったものですが、残念ながら実用化にはまだまだのようです。

私にとって、内燃自動車の燃料として何となくイメージがわくのはバイオ燃料・水素燃料ぐらいでしょうか。
バイオ燃料には主にバイオエタノール(ガソリン代替)とバイオディーゼル燃料(BDF/軽油代替)の2種類があります。

バイオエタノールの原料として代表的なのがサトウキビやトウモロコシです。それらの原料を日本が自国で賄えるほど生産する、というのは現実的ではありません。
バイオディーゼルといわれてもあまりピンときませんが、「天ぷら油(廃食油)で走るバスだよ」といわれると「聞いたことある!」となりますね。

バイオエタノール燃料の原料 トウモロコシ

西武バスでは2020年から日本のバイオベンチャー企業「株式会社ユーグレナ」が開発したミドリムシ(ミドリムシから燃料ができるなんて不思議です!)と廃食油からなるバイオ燃料「サステオ」を導入しましたが、まだ生産量が少なく価格も割高だそうです。逆をいえば生産量と需要が増えれば価格も下がるのでしょう、期待したいです。
その他にも、水素を燃料とするトヨタの燃料電池バス「SORA」やリニューアブルディーゼルを100%使用したバスを導入。ひとつの燃料だけでなく選択肢を広げることでいろいろな状況に対応できるようにしているそうです。やはり選択肢がある事はとても大切です。

トヨタの燃料電池バス SORA

ところで、リニューアブルディーゼルってみなさんはご存じでしたか?
私はつい最近、ニュースではじめて耳にしました。
Wikipediaによると、「フィンランドの石油精製会社Neste(ネステ)社によって商業化されている植物油精製燃料の製造プロセスです。」とあります。
再生可能資源由来の燃料製造で世界最大級のNeste社のリニューアブルディーゼルは、廃食油や動物油等を原料として製造され、主に輸送用トラック・バス等の燃料として使用、さらに既存の車両や給油関連施設を「そのまま」利用することが可能な代替燃料のひとつなのだそうです。
※今までの燃料にブレンドし、既存の車両や給油関連施設等を改造したりせず「そのまま」利用できる燃料のことをドロップイン燃料といいます。

そして水素燃料です。
水素は、電気を使って水から取り出したり、石油・天然ガス・化石燃料・下水汚泥・廃プラスチック・太陽光・風力等の自然エネルギーなどさまざまなエネルギー資源から作ることが可能で枯渇の心配がないのだそうです。そして、二酸化炭素や有害ガスを排出しません。
それだけを聞くとなんだか無敵です。資源に乏しい日本には一番向いているような気がします。もっとチヤホヤされてもいいのではないでしょうか。

「水素自動車」が主役になれない理由

では、なぜ無敵に思える水素燃料がチヤホヤされていないのでしょう。 

水素自動車には、水素を直接燃焼させてエネルギーを作る「水素エンジン車」と水素と酸素を取り込んで発電する燃料電池を搭載した「水素燃料電池車(FCV)」とがありますが、ともに以下の大きな問題点があります。

・車両価格が高い:燃料電池にはレアメタルが使われるため製造コストが高い
・水素ステーションの数:電気自動車の充電設備よりも更に少ない。(一件もない県がある)
・水素ステーションの建設に莫大な費用がかかる
・水素の貯蔵・管理・搬送にコストがかかる
・水素の製造にコストがかかる
・水素の製造に電気が必要
・水素の製造過程で二酸化炭素が排出される

シンプルに「水で走って水を排出する」夢のエコカーだと思っていましたが、現実は厳しく甘くありませんでした。

ちなみにトヨタのFCV車「MIRAI」は中古であれば190万円前後で入手可能だそうですが、(新車価格は700万円を超える高級車です)やはり水素ステーションの少なさはネックになります。

最後に

ガソリンとともに発展した自動車産業の、100年に1度の大変革期。
ガソリンの代替エネルギーが多種多様にあることもわかりましたが、それらを実用化するには課題が山積みで、さらに莫大な時間と費用がかかります。
今すぐに「ガソリンに取って代われる」のはやはり「電気」なのでしょう。

EUでは、プラグインハイブリッド(PHEV)車も100%電気で走るバッテリー電気自動車(BEV)へ移行することが求められています。
昨今の日本や世界の異常気象を考えると、その緩和や解決の一端としてまず「積極的なEV化への参加」というのは大賛成です。
ただ、「EV車一択」ということに違和感が残るのです。自然災害の多い日本には合わない方針です。消費者が自分のライフスタイルや自分が住んでいる地域に合ったEV車を選べることが重要だと思うのです。

さいわい日本は(今のところ)電気自動車(BEV)・ハイブリッド車(HEV)・プラグインハイブリッド車(PHV)・燃料電池自動車(FCV)という選択肢があります。目線は世界の流れにしっかり合わせながら、足元は日本の事情に合わせて動く。選択肢があることは『EV化に関しては消極的』なことではないのです。

キンタン 守屋


《参考資料》
電気?バイオ燃料?ガソリンに代わる自動車の代替燃料まとめ | エンジョイ!マガジン
「リニューアブルディーゼル」バス出発…廃食油再生、CO2は90%減 | レスポンス(Response.jp)
NesteReneableDiesel-ウィキペディア
なぜ水素は「未来の燃料」ではなくなったのか? 脱炭素目指す自動車メーカーが手を引く理由(AUTOCAR JAPAN) - Yahoo!ニュース
「世界はなぜEV一択なのか」 トヨタ社長に“直球質問”してみた 【回答全文あり】(1/3 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
廃食油等を原料とする「リニューアブルディーゼル」で走る日本初の旅客バスが誕生! 脱炭素社会実現を目指し旅客自動車としてリニューアブルディーゼルを日本初導入 | 2022年 | 伊藤忠エネクス株式会社


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