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制作の前にあるもの

私の作りたいものは、どこまでも「人間の作れるもの」である。
この世界を空想的に捉え、確かに触れることのできる物質に落とし込みたいと思っている。
そうして私は、過去に学んできた陶芸の手法を用いて、自然界には存在しない人工の石を作るようになった。
それらを『稀晶石』と呼んでいる。
まず、私の石への興味と、制作の動機についてここに記しておきたい。
石は文明のはじまりである。
誰かが稀晶石を手にし、それに何か役目を持たせてくれたら、私は文明がうまれる瞬間を何度でも観察できると思っている。
さらに自分の死後、もっと長い時間を超えていけば、稀晶石は自然の悪戯として未来人に届くかもしれないと夢想する。
陶芸の手法を通せば、未来人とのコミュニケーションが可能になるかもしれないことは、私に生きる力を与えてくれる。
全てが私の思惑通りになれば、この行為はとんでもなく壮大な話になるんじゃないだろうか。
そんな問いを抱えながら、石を制作せずにはいられなくなっている。
私達は壮大な何かに遭遇した時”言葉にならない感覚”を抱く。
たとえば自然や芸術、愛情と対峙した時、曖味だが確かに通じ合うような瞬間がある。
言葉を介さずとも、それはコミュニケーションだと考えている。
ただただ気持ちが良いし、私は飽きるまでそれと向き合いたいと思っている。
でもその曖昧さを、言葉にできないものとして考えるのを諦め、放置していてはいけないと思う。せっかく掴みかけた本質が、時の流れの中で消えてしまっては困る。
だから私は、大切なものを時を超えてもいつでも触れるものとして、今日も石を作るのだ。

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