小説 『恋しくばたずね来てみよ』 参

《ご訪問くださいまして、誠に有難う存じます。


前回、連載の第二話目のリンクはこちらです。

『恋しくばたずね来てみよ』 弐|木ノ下朝陽(kinosita_asahi) #note #クリエイターフェス #眠れない夜に

https://note.com/kinosita_asahi/n/ndc8e3535b5db


今回は、上のリンクの回の内容の続きです。 》



その日の夜、バイト先から帰宅する途中、実家に電話を掛けた。


「みさお…?……アンタ、元気にしてるの?」


電話回線の向こう側からは、いつもの母親の声が聞こえた。

大学に進学してからというもの、
電話のたびに、母は毎回こんな調子で体調の具合を訊いてくる。


「ああ、うん、…まあね…」

こちらも同様に、いつもと同じ答えをいつもと同じ調子で返した。


「なんだか、…いやに元気がないのね…。何かあった…?」

「……いや、…別に…」

どうしてこう、母親という生き物は、
こと我が子に関して、

何やら、…ほとんど超能力めいた直感と洞察力が働くのだろうか。


「あのさ、…来週の法事、祖母ちゃんの。俺、出るよ」

「ええ?…だってアンタ、この間はサークルの旅行だががあるから無理って…」


そのサークルのメンバーの女の子に振られて、
彼女と顔を合わせたくないから、旅行をキャンセルした、

等とは、さすがに心配性の母親には聞かせられなかったし、

それに、わざわざこっちから表明したくもなかった。


「いや、…この先、しばらく法事はしないって言ってたし、

それに俺、やっぱり、祖母ちゃんには、小さい頃ずっと面倒見てもらったから」


まるっきりの「嘘も方便」という訳ではなかった。

母親の母親、つまり母方の祖母ちゃんには、本当に散々世話になったのだった。


幼少の砌、我が家は共働き家庭だったので、

ほとんど赤ん坊の頃から、託児所代わりに祖母ちゃんちに預けられていたらしいし、

幼稚園のお迎えだって、
母親よりも、祖母ちゃんが来てくれた回数の方が、ずっと多かった…と記憶している。


学校に上がってからだって、
通学カバンのまま、しょっちゅう祖母ちゃんちに入り浸っていた。


今まで曲がりなりにも、司法のご厄介になんぞならずに、
無事に大学まで進学できたのは、

少なくとも、四割方は祖母ちゃんのお蔭だと思っている。



もし祖母ちゃんがいなかったら、

まともな人間どころか、

何やら薄らぼんやりした、化け物のようなモノにでも
うっかりとなっていたかも判らない。



ただ、…正直言えば、「去るもの日々に疎し」というやつだ。


薄情な話だ…と、
恐らく誰より自分が一番強くそう思うのだけれど。



《 ここまでご覧くださいまして、誠に有難う存じます。

m(_ _)m


物語は、第四話

に続きます。



よろしければ、引き続きのご高覧を賜りたく存じます。 》





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