見出し画像

冬のオンライン映画祭@スウェーデン

2021年最初の1ヶ月は、ほぼ学生らしい生活を送って終わってしまいそうだが、29日からスウェーデンのヨーテボリ映画祭が始まった。ヨーテボリ(って字面と発音になれるまでに時間がかかる)映画祭はいつか行ってみたいとずっと思っていたが、時期的にチャンスがなく逃していた。今年はオンライン開催ということでエントリー。日本から参加する人は映画祭関係者以外は見当たらない。ま、北欧の映画祭としては大きいけど地味だし、そうだろうね。業界向けの新作や製作前プレゼンは来週後半。とりあえず、今は観られるものから観ようということで、素通りできなかったのが “TOVE” 。日本での今秋公開は決まっているので別に観なくてもよかったが、『劇場版 ムーミン谷の彗星 パペット・アニメーション』を配給しているし、今年の北欧映画では一番の話題作だろうから、やはり早めに観ておきたかった。

トーベ・ヤンソン生誕100周年だった2014年は、日本でも大規模展覧会が開かれたり、伝記的な関連本やたくさん出版されて盛り上がっていた。その時やその以前からも含め、様々な本で明かされていた若き日のトーベ・ヤンソンの恋愛や苦悩が「ああ、こういうことか」とわかりやすく描かれている。本を読んでいる人やトーベ・ヤンソンにムーミンだけでない興味を持っている人には、すんなりと受け入れられるだろう。ミシェル・ウィリアムズ似の主演女優も魅力的だ。『長くつ下のピッピ』の原作者アストリッド・リンドグレーンの若い頃を描いた『リンドグレーン』でもそうだったと思うが、ムーミンやピッピが好きだけど、原作者たちをよく知らない人には、想定外の驚きがあるのかもしれない。しかし、ムーミンもピッピも、北欧の文化や当時の女性たちが抱えていたものが反映されているのは当然のことで、それも含めてキャラクターや本を好きになって欲しいし、映画はそれをつなぐものになり得る。kinologueでマリメッコの創業者アルミ・ラティアを描いた『ファブリックの女王』を配給したときに「こんなの私が大好きなマリメッコとちがう!観たくなかった!」と怒られた(笑)。でもね、この尋常じゃなくコワイおばちゃんじゃなかったら、敗戦後早々に立ち上げて70年も残っているブランドにはなってないのですよ。このギャップは、良くも悪くも、北欧やフィンランドのほっこり柔らかい幸せな「作られた」イメージが固定化されているからだ。映画はそれを覆す可能性があるし、イメージの奥にあるものを知ってもらうために配給をしている(少なくとも、kinologueは)。

"TOVE" の中で気になったのは、メチャメチャ煙草を吸っているシーンが多い(笑)。当時の働く女性たちはみんな吸ってたんだろうなぁ。トーベとアルミは同世代なので、『ファブリックの女王』もそうだった(下記写真)。

画像1

小津の『お茶漬けの味』を久しぶりに観たときも同じようなことを思ったような気がするが、時にはくわえ煙草でスパスパ吸っている女の人たちが至極カッコいいのだ。煙草は女性たちの自由の象徴のように見える。現代が舞台の映画ではほぼ観られなくなった光景だし、映画が失ったもののひとつだろう。『ファブリックの女王』は喫煙シーンの多さから子供向けの映画教材が作れなかったという話を、フィンランドのNPOから聞いたことがあるが、“TOVE” もかな。煙草を吸う文化そのものも子供たちには知って欲しい気もするけれど。LGBTQの映画が珍しくなくなった今、“TOVE” が日本のムーミンファンにどのように受け入れられるのか、楽しみだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?