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子育てしていた頃

子どもが小さい頃、手でガリガリとhtmlを書いては自分の小さなホームページに文章を載せていました。本を買ってきて見よう見まねで作り始めたのです。ブログなんて言葉はまだあまり無い頃でした。少しずつ書いては載せ、書いては載せ。見ているのはたぶん親しい友だち数人だけで、3年ほど形を変えながら細々と続けていました。

もうそのページはないのだけれど、いま残っているファイルを読みかえすと本当に毎日毎日ギリギリのところでふんばって生きてきたんだなと思います。忙しかったし、何より子どももわたしも病気ばかりしていました。
ただの風邪やただの腹痛なんですが数が多かった。きっととても疲れていたのでしょう。

クリスマスを控えた寒い日曜日の記事がこれです。当時はプライバシーのことなど考えもせず固有名詞バリバリだったので、細部は少し書き直しています。

 なんだか妙に腹の立つ日曜日。……(中略)……でも腹が立つその理由は全然別のところなので、家族に八つ当たりしてはいかんと気持ちを切り替える。
 そうだ、クリスマスツリーを出そう。お祝い事として友人から頂いたツリーだ。気がついたらもうアドベント。うちはクリスチャンではないけれど、どうもアドベント以前に華々しくツリーを飾る気にはなれなかった。こういうものは季節とか時期があるのだ。

 物入れをごそごそ探して出してくる。ツリーに飾るオーナメント類はずいぶん紐が切れたり、壊れたりしたけれど(子どもが小さいほど、破壊力は大きい)、まだまだ十分たくさんある。電飾も切れていないぞ、と。
 午前中にリキを入れて1年ぶりに出窓の掃除とカーテンの洗濯をしたのでツリーを飾るスペースは確保されていた。ビタミン剤を飲んでカツを入れただけのことはあった。そうでもしないとこの頃はなかなか掃除できない。

 とりあえずツリーだけ出して電飾を飾ってみた。家の外に出て、窓越しに光具合を確かめる。うん、なかなかいい。
 曇天の薄暗がりの中、そのまま電気をつけておいた。光の点滅がきれい。立っていると肩から足先から凍ってくるような陽気の中で、隣の家との境に佇んでじっと窓を見る。寒波がやってきた冬の遅い午後。兄は食卓でさんすうの宿題をしている。弟はまだお昼寝している。

 ちびさんが昼寝から起きたらきょうだいでオーナメントを飾ろう。サンタやトナカイやベルやプレゼントの包み。ツリーの飾り付けのおかげで手当たり次第に八つ当たりしたい気持ちは消えた。ありがたいことだ。感謝して、しずかに点滅を見つめる。

ああこんな日があったんだ、と、思いました。窓越しに外から見る小さなクリスマスツリーの灯り、身を切るような寒さと、それでも何となくこれが幸せなのかなと思った記憶が残っています。

子どもたちは保育園で次々に風邪をもらってきては熱を出し、それをさらに親がもらって体調を悪くしたものです。だから助けてもらえることはすべて人の手を借り、全部の買える時間にお金を出しました。土日の休みは24時間営業の育児で、月曜に出勤して自分のデスクに座るとはじめてお茶が飲める、という生活。家に帰って座ったら最後、そのまま疲れで立ち上がれなくなるので、決して座らないで一気に食事の支度を終えなければ、という気力で毎日を過ごしていました。

泣いても叫んでも自分が動かなければ何も始まらない。天から「育てよ」と与えられた叫ぶ小さな生き物たちに翻弄される日々。
よくがんばったよなあ……
本当によく頑張りました、自分。

小さい人たちは毎日少しずつ大きくなり、悩みも課題もそれに伴ってどんどん変わっていきました。食べることや眠ること(眠らないこと)が悩みだった時期から、人とのやりとりが悩みになる時期、ハラハラしながら手を出さないようにじっと我慢する時期、そしてもう見守る以外の何もできない時期と。お手本はなく正解もない子育ては毎日が挑戦で、昨日うまくいったことが今日はたち行かないこともしばしばありました。大きな出来事が起こったというより、小さな出来事が次から次へと押し寄せては返し、また押し寄せる波のような毎日でした。

生きるってこういう小さなことの積み重ねなのかなと思います。そうした小さなことをたくさんたくさん積み重ねた結果、いつの間にか宿題していた人も、お昼寝していた人も、すっかり大人になっていたのでした。
ちっちゃくてプニプニだったのに、のっそりした大きな人たちになったよ。

今はもう、甲高い声で歓声を上げ走り回る子どもたちと一緒にツリーを飾りつけることもなくなってしまったけれど、冬の寒い日にはいつも、薄曇りの静かな午後と窓越しに見えたツリーの電飾を思い出します。ちかちか輝いては時折消え、また輝き出す光のきらめきを。

昔は小さかった彼らにもわたしにも連れ合いにも、そして行き交うすべての人たちに、これからもたくさんの幸せがあることを祈りましょう。
メリークリスマス。そしてハッピーニューイヤー。

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