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ブータン旅行記 第3章 王様という存在

私たちはそんな話ばかりしていたわけではなく、もちろん崇高(?)な話題もある。
印象深かったのは、国王に対するブータン人の思いだ。

ある日の観光中に、政府関係の建物の立ち並ぶエリアを通った。
日本で言う霞ヶ関みたいな感じだろうか。
キンガさんが突然ゾンカ語で騒ぎ出したのだ。
サンゲも何やら興奮気味に言葉を返している。
サンゲの通訳によると、どうやらたった今、私たちの横を国王の護衛の車が通り過ぎていったらしい。
ということは、これから国王の乗った車がやってくるのだ。
「これはちょっと待って見てみまショウ!」というサンゲの一声で、車を路肩に寄せて、私たちはしばし待機することになった。
二人の興奮具合からして、ブータン人でも王様に会う機会はそうそうないようだ。
やがて、後方から1台の車がやってきた。
いかにも高貴な人物が乗っていそうな物々しい黒塗りの高級車である。
車は私たちの横を通り過ぎていく。
窓の中を覗くと、そこにはやんごとなきブータン国王が!!

・・・いたかどうかなんてわかるはずもなく。
一瞬だったし、なんか男の人乗ってたなー
みたいな。
あれが国王ってことでいいんだよね?
みたいな・・・。

しかし二人は大興奮だ。
「居ましたネ!オウサマ居ましたネ!!」
サンゲが嬉しそうに言う。
キンガさんも感無量といった顔だ。
ブータン人がここまで王様LOVEだとは知らなかった。
王国ってこういう感じなのかぁ、と、しかし私はまだぴんとこない。

ブータンでは、町のあちこちに国王夫妻の写真が飾られている。
空港にもホテルにも町中のお店にも、男前の猪木といった風貌の5代目国王と超美貌の王妃が寄り添っている写真が必ずある。
それがまた、まるで芸能人のような写真なのである。
国王夫妻が結婚したのは確か2011年。
そのすぐ後に日本にもやってきたので、ちょっと話題になったと記憶している。
愛されているんだなぁと思った。

しかし、サンゲから国王についての話を聞いているうちに、少し違う側面が見えてきた。
彼は、お祈りをするときはいつも、現国王である5代目ではなく、一つ前の4代目の国王を思って祈ると言ったのだ。
彼は4代目国王が大好きで、歴代国王の中で一番尊敬している、自分も4代目みたいになりたい、そう思って、毎朝お祈りするんだそうだ。

4代目国王が国を治めていたのは1972~2006年。
その間、ブータンは激動の時代にあった。
それまでずっと、最小限の外交しか行わず半鎖国状態であったのが、貿易や外国人観光客の受け入れを始め、王国制を廃止して民主化に踏み切った。
これらは全て4代目国王の功績らしいのだ。
王様が民主化を主導するというのはかなり特殊な形だが、それが極めてうまくいき、国民の心情的には、ブータン国王の地位は今なお最高位にある。
民衆に奪われるのではなく自ら国の為に退く姿勢が、帰って国王への尊敬の念を高めたのだろう。
さらに4代目は、道路などインフラの整備を開始し、開発に踏み切った人でもある。

今の自分たちの生活があるのは4代目国王のおかげだとサンゲは言い切る。
確かに彼の功績をみると、ただならぬ才気と行動力の持ち主であったことは想像に難くない。
しかも4代目は、歴代国王のなかで一番のハンサムなのである。

5代目ももちろん偉い人だけど、でも彼が即位してからブータンは災害続きだとサンゲは言う。
年に3回も大きな火事が起こったり、地震も頻繁にあったと。
それは別に5代目のせいではないんだけれど、でも何となく感情としてもやもやするものがある・・・という彼の言い分はよくわかる。
そういうわけで、やっぱり4代目が一番好きなんだそうだ。

王様っていう概念が私にはよくわからないけれど、信仰の対象となるものなんだなぁ、王国ってすげーなぁ、と感動した。
そして、何人かのブータン人から国王について聞いているうちに、どうやら多くのブータン人がサンゲと同じような印象を持っているらしいことがわかってきた。

さらに、ブータンの人々には、自分たちの国に対する意識がとても強いように思えた。
自分たちの力で国を作っている感じがした。
日本との決定的な違いはそこなんじゃないだろうか。
一般市民であっても、国が行っていることに対して当事者意識がはっきりとあるのだ。
偉い人たちが勝手にやってる、という感じがない。
国とは本来そういうものなのではないかと思った。
そういう意味で言えば、日本はすでに、国という体を成していないのではないかと不安になった。
それは必ずしも政治家や一部の権力者だけのせいではないような気がした。
 
 

国と宗教がしっかり結びついていることも関係あるのだろうか。


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