見出し画像

ブータン旅行記 第1章 憧れの珍獣

おなかを満たした後は、ブータンの国獣であるターキンを見に行く。
ついに念願の珍獣とのご対面である。
7年間肌身離さず持っていたキーホルダーを握りしめ、私の胸は高鳴る。

ターキン放牧場はティンプー郊外の西の山の中腹にある。
放牧場のことをサンゲは「動物園」と表現した。
もちろん日本の動物園とは全く違う。
単に、フェンスで囲った中に放牧しているだけだ。
囲われたエリアはめちゃくちゃ広くて、ほとんど放し飼い状態に近い。
入り口近くにはシカ(でかい)とかヤギ(茶色い)とかがいた。

「あそこにイマスネ。」サンゲが指差した先には小さな茶色い物体。
おお、あれかあ!・・・遠すぎてよく見えない。
と思っていたら、サンゲは不思議な動作でターキンを呼び始めた。
低い声でホッホッホッと言って手を叩き、その辺に落ちていた木の枝をわさわさと揺らす。
すると遠くの方にいたターキンが、むくりとこちらに顔を向けた。
そして、ゆっくりとこちらに向かって近寄ってくるではないか!!
すごい!すごいよサンゲ!私は叫んだ。
サンゲは得意そうな顔だ。

ターキンが近づいてくる!どんどん近づいてくる!

・・・のだが、その歩みののろいこと。
のったらのったらと、あくまで自分のペースを守ったまま、緩慢な動きでこちらに向かってくる。
決していそがない。あわてない。

のったら、のったら・・・

そのスピードのあまりの遅さに笑ってしまう。
どんだけマイペースなんだこいつ。さすが珍獣だけある。
しかし、極めてゆっくりではあるが確実に近づいてくる。

待つことしばし。
・・・かなりしばし。
ついにフェンスの前まで奴はやってきた。
すごい!!
サンゲはそのへんにあった草とか枝とかを金網の隙間からねじこんで、ターキンに食べさせている。
夢中で貪り食う珍獣。
食べるのは割と早い。
食べない種類の草もあるらしく、サンゲはちゃんと選別してあげていた。
私のガイドさん、すごいなー。
近くで見るターキンは、なんともひょうきんな間の抜けた顔をしていて、とても他人な気がしなかった。
やっと会えたねぇ。
感慨に浸る私のことなど気にも留めず、珍獣は草を貪り続ける。

こんな雰囲気の動物を初めて見た。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?