見出し画像

ウェブストアスタッフが3月に読んだ本

こんにちは、ウェブストアスタッフ・ミケです。
なんだか不安定な気候で、春らしさはあまりないような……?それともこの不安定さが春なのかも……?
桜もついに開花したようで、これからどんどん春めいてくるのでしょう。

今回は2月に引き続き「ウェブストアスタッフが読んだ本」企画の更新です。
それでは私・ミケが読んだ本からご紹介!


●ミケ

よくよく見ると結構怖い顔をしているし、それなりの凶暴さもあるはずなのに、なんとも奇妙なそのフォルムと地上をよちよち歩く姿の愛嬌がすべてをうやむやにする動物・ペンギン。1990年代のキエフでそんなペンギン(しかも憂鬱症だ――)と暮らす売れない小説家ヴィクトルの日常は、“まだ生きている著名人の追悼文”を書く仕事を請け負うことで、だんだんと歪んでゆく。
全体を通して灰色の冬の空のような、陰鬱とした空気が漂う。その一方で、ペンギンのミーシャや知り合いの娘ソーニャといったヴィクトルの「疑似家族」とのやりとりが、決して暗いだけではないこの小説の独特の空虚感・ほの暗さとほの明るさを出している。

果たしてミステリアスで不条理なのは、小説世界だけなのか。いまだ戦時下であるウクライナはもちろん、安全な場所で暮らす私たちの日常でさえも不穏と不条理と隣り合わせであり、知らず知らずのうちに何かに加担しているのではないか。
そんなうすら寒さとペンギンのかわいらしさが両立する世界。それはまさしく風刺と物語のバランスに優れたこの小説そのものであり、ぐらぐらとしているが表面上はうまく成り立っているように見えるこの社会である。


■ノラ

書影から商品ページにリンクしています。

17歳のナツキとトシオは、唐突に、幼少期に飛行船「グラーフ・ツェッペリン号」を一緒に見たことを思い出す。舞台は21世紀の現代。鮮明で詳細な記憶。でも、グラーフ・ツェッペリン号が飛行したのは1920年代のはず。
時を同じくして、2人の住む世界にも次々に異変が発生する。
2人の記憶は何を意味するのか?2人が再び出会うとき、何が起こるのか?

描かれている風景は知っている世界のようでもあり、知らない未来のようでもあり。懐かしささえ感じる日常の風景の中に、少しずつ違和感が積み重なっていくのにぐいぐい引き込まれて、子どもの頃のように夢中になってSFの世界を堪能しました。
光量子コンピュータなどの最先端の科学と並んで、人口重力装置や月・火星の基地など実現されていない技術も登場します。私が見ているこの現実は、別の世界で実現されなかった可能性の世界かもしれない…そう考えると、少し現実から解放されて自由になれる気がします。
「会いたい」と互いに惹かれ合うナツキとトシオの切実さが、可能性と現実の間で不安定に揺れ動く世界に重なって、胸に迫る1冊です。


3月は以上2冊となります。
こちらの記事が、新年度の読書のきっかけになれば幸いです。

それでは次回もどうぞお楽しみに!