愚直な父は私の誇り

昨今は、健康診断が定着して喜ばしいことだと思う。
まだ、ほんの20年ほど前のことだが、予防医学を切に訴えていた人がいる。私の父である。医師として患者に1年に一回は健康診断を行うことを強く勧めていた。だが、その頃はまだ今ほど市町村の検診システムも予防の大切さも周知されていなかった。
父は多くの患者から嫌われた。
「どこも痛くも痒くもないのに何故胃カメラをやらなければならないのか?お金儲けではないのか?風邪をひいたのだから、風邪薬を出してくれればよいのに…」と。
この頃はまだ市検診ではバリウム検査しか許されていなかった。胃カメラをすると保険で行わなければならないが、既に父は胃カメラの大切さを訴えていた。スキルス癌はバリウム検査の方が見つけやすいと言う例外はあるが…
病識のない患者さんに難しい病気の話をした。自分の病気は分かっておいたほうが良いと何度も何度も…でも患者さんは「お任せしてるから薬だけ出してくれればよいのに…」と離れていく患者さんも多かった

父はいつも正しかった。ただ正しすぎるのだ、聞き流したり要領良くできない。愚直という言葉が似合うかも知れない。
自分のやりたい医療を行うために、3億の借金をしてクリニックを開設し、外車に乗りたいと言いながらも国産車にしか乗らず(儲けようとしないから乗れなかったが正しいかも(^_^;))
娘を医大に行かせるも、素直になれず「継いで欲しい」と言えず。
80歳になった時に、物忘れ(認知症ではなく健忘症のレベル)が出てきたから患者に責任を取れないからと引退をし、貯金がないのでクリニックを売った3000万円で生涯を終えるまで凌ぐと言う。(年金もかけてないらしい)

こんな父なのだ。
最近思う。私は父に似てきたなと。

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