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露店で婆さんが謎の肉を焼いている

 残暑の続く九月。
 私は会社の付き合いで地元の祭に上司二人と参加することとなった。
 この辺りでは一番の祭ということもあり、普段は閑散とした街が大勢の人で埋め尽くされていて異様な熱気に包まれていた。
 最初は普通に露店での食べ歩きを楽しんでいた。
 しかし途中から酒が回ってきたのだろうか。
 上司の二人は若い女性に声をかけ始めた。
 元々、人付き合いが得意ではない私は話にも加われず、ただ立ち尽くしていた。
 だがなんの発展もない立ち話に徐々に嫌気がさしてきた。
 なので二人がまだ十代と思われる的屋の女と話しこんでいる間に、そっとその場を離れた。
 人込みに一度飲み込まれると、私は現在地をすぐに見失った。
 もはや進んでいるのか、戻っているのかも定かでない。
 ようやく人込みを抜けると、辺りは急にしんと静かになった。
 そして私の目の前には一軒の露店がぽつんと佇んでいる。
 しかしその店構えは暗く、どこか薄汚い。
 私は気味が悪くなり、立ち去ろうとした。
 「……おにいさん……よかったら一本どうだい……」
 唐突に声をかけられた。
 振り返ると長い白髪を肩まで伸ばした婆さんが何かを焼いていた。
 「あ、いえ」
 「……安くするよ」
 店の張り紙には「ステーキ串 600円」と記されていた。
 鉄板の上でジュウと肉の焼ける音がする。
 そう言えば、今日は先輩に付き合うばかりでしっかりとした物を食べていない。
 私の逡巡を悟ったのだろうか。
 「……300円」
 婆さんはいきなり値段を下げた。
 「……どうだい……とても美味いよ」
 しばしの沈黙。婆さんの迫力に負けた気がした。
 「一本お願いします」
 「……毎度あり」
 婆さんから肉串を受け取ると、私は人込みに戻った。
 腹も減っていたので、歩きながら肉串を口に含む。
 肉はとても硬く、なかなか噛みきれなかった。
 私は肉を噛みきろうと顎に力を入れた。
 その瞬間、口中に獣の臭いが広がり、異様な触感を舌に感じた。
 私は大きくむせて、口の中のものを手に出した。
 手のひらには真っ白な毛が大量に含まれた肉片が転がっていた。
 私は近くのコンビニのトイレに駆けこむと激しく嘔吐し、残りはゴミ箱に捨てた。
 どれくらい経っただろうか。
 コンビニから出ると、上司と出くわした。
 上司は「どこにいたんだ」「心配したんだぞ」と声をかけてくれたが、あまりよく覚えていない。
 あの肉は何の肉だったのだろうか。
 後日、私が露店のあった場所へ行くと、そこは何もないただの工事現場であった。

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