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「不在の不安」と「常在の安心」:人生パンク道場

Twitterのタイムラインを眺めていると、「男性が長年付き合った彼女と結婚せず、別れて数ヶ月後(〜半年くらい)、別の女性(時として、だいぶ若い)と結婚している」という事例を見かけます。

そこでは、「どうして、長年付き合っていた彼女と結婚しないのか、なぜ他の(時として、だいぶ若い)女性と結婚するのか」という、義憤に駆られた意見も出ているくらいです。


確かに、女性の心理としては、「これだけ長く付き合っていることだし、そのうち男性側から結婚の話が出てきてもおかしくない。楽しみ〜♡」となることも多いことでしょう。

それだけに、「なぜ・・・?」の疑問や不信といった気持ちが拭いきれず、過去を悔やんでも悔やみきれない、「もしもあの時・・・」といった後悔もまたふくらんでしまいます。


この問題に関して、逆に「女性が長年付き合っていた男性と別れ、すぐに別の男性と結婚する」事例は少ないように思うので、男性側に非があるような、ある意味で、男性特有の行動なのでしょうか。

もちろん、男性・女性それぞれに言い分や結婚に対する考え方の相違というものもありますし、それ以外での当事者同士の問題もあるでしょう。


ただ、個人的には、これは男性と女性の違いや、付き合った年数の長さ云々というよりかは、それぞれの恋愛と結婚に対するとらえ方による差異であるように思っています。

詳しくは、下記の書き起こしを読んでいただきたいのですが、恋愛と結婚は重なるところも多いけれど、必ずしも恋愛の延長が結婚にあるわけではないということではないでしょうか。


【相談7】

七年ほど付き合った彼氏と、一年半前に別れました。特にこれといった原因はなかったのですが、彼の愛をいつでも感じられたので、安心しきって、逆につまらなくなってしまいました。

今思うと、彼と結婚していたら幸せになれたような気がして、こんなに悩むこともなかったのにと思うのですが、今はもう、あれ以上の彼と出逢える気がしません。

風の便りで、彼はもう結婚して子供もできたと聞き、目の前が真っ暗です。この先どうしたらいいのでしょうか?(20代・女性・会社員)

(町田康さんによる回答→)

昔は見合い結婚が一般的でしたが、いま多くの人が恋愛の延長で結婚しています。なかには琴瑟相和(きんしつそうわ)し、平和な家庭を築いてむっさハッピーです。という人もいるかもしれませんが、なかには、失敗だった、と後悔する人、その挙げ句に、離婚をする人も相当数あるようです。

好きな者同士がせっかく結婚したのになぜそんなことになるのかというと、恋愛と結婚はそれぞれ方向性の異なる男女の関係である、つまり恋愛の延長に結婚があるというわけでないからです。

これを一言で言うと、"恋愛は不在の不安に妙味があり、結婚は錠剤の安心に意義がある"、ということです。

恋愛の不在の不安というのは、どういうことかというと、相手が自分の側におらず、その間、相手のことを想う時間があるということです。

不在の不安が妙味である恋愛には、必ずプラスの時間とマイナスの時間があります。

プラスの時間は相手と一緒にいて楽しい時間で、マイナスの時間は、相手がいない不安な時間です。

というと、ならばマイナスをなくしてプラスだけにすればよいではないか、というようなものですが、不在がその本質である恋愛においては必ずマイナスの時間を伴います。というか、マイナスがないとプラスも存在できないのです。

つまり、一緒にいない不安が大きければ大きいほど、一緒にいる楽しさが増大し、一緒にいない不安がそれほどでもなければ、一緒にいる楽しさもたいしたことがない、ということになるのです。

ということがわかれば、あなたがつまらないと感じた理由は明らかですね。彼はあなたに不在の不安を感じさせることがなかった。したがって一緒にいても楽しくなかった。ということです。

つまり、あなたは自分の行動を後悔しておられるようですが、それはなにもあなたが、あなただけが感じた特殊な感情でもなく、あなたがことさらとった愚かな行動でもなく、だれでもそう感じ、そうするであろう一般的な感情に過ぎないのです。

したがってその点については"あなたは自分を責めたり、後悔したりする必要はありません"。強いて言えば悪いのは、恋愛をしているのにもかかわらず、不在の不安を感じさせることができなかった相手の男でしょう。つまりあなたはその時点で正確に相手を評価していたということになります。

ではなぜその男は不在の不安を感じさせることができなかったのでしょうか?それは、その男性が恋愛、すなわち不在の不安と恍惚ではなく、結婚すなわち常在の安心、を志向していたからでしょう。

結婚すなわち常在の安心とはなにか。それは、右に見た恋愛のプラスとマイナスを相殺してプラマイゼロの状態にしてしまう、すなわち、一緒にいない不安の時間もないが、一緒にいる楽しみの時間もなくしてしまう、ということです。

その結果、得られるのが常在の安心で、たとえて言うなら悟りのようなものです。

そこには不安も恍惚もありません。ただ、日常が繰り返され続いていくだけです。

"恋愛を志向する人はそれを灰色のつまらない日常とネガティヴにとらえ、結婚を志向する人はそれを穏やかな日々と肯定的にとらえます"

さてそして、そのうえで、現在の結果をどう評価するかですが、それはあなたのいま現在の心境によって変わるでしょう。

あなたが以前と同じく、不在による恍惚を得たいと思っているならば、つまり、恋愛をしたいと思っているならばその男性は、いま現在もあなたにとって無価値なものです。

なぜなら、もし仮に、その男性が妻子を捨ててあなたのところに戻ってきたとしても、彼があなたにもたらすのは、常在による安心、プラマイゼロのなにもない生活に過ぎず、あなたはまた、つまらない、と感じるに違いないからです。

(引用:『人生パンク道場』町田康/角川書店)


『人生パンク道場』町田康/角川書店【単行本(在庫なし】

『人生パンク道場』町田康/角川書店【文庫版】

この問題に対して、多くの女性の「これだから、男性は○○だ」と共感を集め、ツイートで大いに盛り上がることがありますが、筋道を立てて、じっくり理屈で考えてみると今回ここで紹介した通りかと思っています。

傾向として男性に多いのかもしれないけれど、すべての男性に当てはまるわけではないし、「恋に恋したい」女性が多いということなのかもしれません。

恋愛も結婚も、男性・女性の相手あってのもの、結局のところ、恋愛の延長に結婚を考えているか、恋愛と結婚を区別して考えているかの"方向性の違い"のように思います。


また、感情的に受け止めることに加え、論理的に解き明かしていくことも大切で、あまりに合理的に考えすぎると、「冷徹、冷淡」ともなりがちですが、時にそういう鋭い視点で物事を見るとわかることも多いです。

いかんせん、こういうガッチリ解決する思考は、なかなか共感を得にくいように思いつつ、たとえ感情的には受け入れづらくても、時間をかけながらでも「冷静に見れば、確かにそうだな」となれば幸いです。

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