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おかえりなさい、鈴鹿さん

 鈴鹿景子さんを知っている人が少なくなってしまった。
1976年にNHK朝の連続テレビ小説『火の国に』のヒロインとしてデビューした女優さん。

2023年10月

僕らにとっては、石巻市・中央の橋通り出身で東京で活躍する女優さんでもあった。そんな鈴鹿さんが昨夏、亡くなってしまった。

 存在はずっと知っていて、劇場を作ってからは特にお会いしたいと思っていた。震災後に石巻で活動をはじめた際に、思い切って事務所宛にメールしたこともあった。鈴鹿さんが震災前からやっていた石巻地方の伝承話でもある『飯田口説』のことを聞きたかったのだ。

2022年の10月。
いつもお世話になっている石巻かほくの久野さんのはからいで、鈴鹿さんが完成したてのシアターキネマティカに来てくださった。キネマティカの小さな舞台に立ち、この規模感の小劇場を懐かしがってくれて、「ここで舞台やりたいね!」と話してくれていた。はじめはサービスで優しい言葉をかけてくれているのかなとも思ったけれど、後に本気で言ってくれていたと知る。

 鈴鹿さんが末期の病魔に襲われていたと判明したのは、それからわずか2ヶ月後の12月だった。当時は本当に元気だったのに、ようやく会って話せたと思ったのに、余命宣告をされ、それから一年も経たないうちに、帰らぬ人となってしまった。震災直後に連絡した時に、もっと必死になって繋がって、石巻で何か舞台企画をご一緒したかったと後悔した。

2023年10月。
氏が話していたキネマティカでの公演の約束を果たそうと、事務所の方々が一念発起して公演を企画した。追悼イベントとして、過去の舞台映像の上映と、鈴鹿さんを慕う3人の俳優が、鈴鹿さんが演出していた舞台作品をこの3月に上演する。シアターキネマティカが映画館であり小劇場でもあることも活かして、映像上映と舞台上演を企画してくださった。

 久しぶりの石巻での舞台に、鈴鹿さんご本人はいないけれど、舞台や映像の中で生きた女優だから、「帰らぬ人」にはならない。別に綺麗ごとでもなんでもなく、役は作品の中でずっと生きられるから、僕らがこれからも享受していければ、鈴鹿さんはずっと生きているとおもう。

 設立した経緯を含め、キネマティカは遺志を継がせてもらうことが多い。油断してると歴史はすぐに断絶する。それも自然な流れとして決して悪いことではないけれど、忘れられてしまう人をおもうと、なんか、悔しいよな!
忘れないのは得意な方なので、それに石巻発の劇場として、女優・鈴鹿景子さんの携わった作品や、歩んできた道を、これから伝えられたらいいなとおもう。

 その一歩目は追悼イベントという形になってしまったけれど、情熱だけで頑張っている主催者・関係者さんたちを、劇場としてお手伝いできたらと。ご興味あれば、ぜひ観にきてみてください。チン


▼2024年3/15(金)-17(日)の3日間、シアターキネマティカにて追悼公演
https://www.r-ishinomaki.com/post/0315_suzukakeiko01
(※3/17の回は売り止め)

▼3/12まで「かわべい」にて、鈴鹿さんの足跡をたどる追悼展。台本や写真などを展示。
https://kahoku.news/articles/20240220khn000014.html

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