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「子宮頸がん予防ワクチンは打った方がいいの?」

皆さん、こんにちは! 今回のすくナビ担当は小児科主任教授の杉本です。

今回は“教えて!近大先生〜ワクチン編”です。小児科の外来でよくいただくご質問にお答えするシリーズです。

今回のご質問は中学生の娘さんをお持ちのお母様からです。

「子宮頸がん予防ワクチンは打った方がいいのでしょうか、副作用は心配ないですか?」

早速ですが、結論です。

「子宮頸がん予防ワクチンは必ず接種すべきワクチンです」

となります。
この結論にいたった理由について3つにわけてお話しします。

1.     日本のがん死亡にもっとも関係する要因は感染です。

2.     子宮頸がんの主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)感染で、年間3000人が亡くなっています。

3.     子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種後の重い副反応が回復しない確率は子宮頸がんにかかる確率の264分の1です。


1.     日本のがん死亡にもっとも関係する要因は感染です。

日本人にもっとも多い死因はがん(悪性新生物)で、およそ4人に1人ががんで命を失っています。がんになりたくないと思う人は、がんになる危険性を増すといわれる喫煙や飲酒を避け、食べ物にも気を配ります。しかし、実はがんによる死亡に一番関係している要因は感染です。感染が危険性を増す代表的ながんには肝炎ウイルスによる肝臓がん、ピロリ菌による胃がん、そしてHPVによる子宮頸がんがあります。

肝炎ウイルスによる肝がん
ピロリ菌による胃がん
HPVによる子宮頸がん

2.     子宮頸がんの主な原因はヒトパピローマウイルス(HPV)感染で、年間3000人が亡くなっています。

およそ10人に8人が、一生のどこかでHPVに感染します。HPV感染は、多くの人にとって問題になりませんが、特定の高リスク型のHPVに感染した場合は、がんにつながる可能性があります。日本においては、ほぼ100%の子宮頸がんでその高リスク型HPVが検出されます。
HPVは子宮頸がんの主要な原因ですが、同様に膣、外陰部、陰茎、肛門から生じるがんの主な原因でもあります。また、一部の頭頸部がんにも関連しています。
HPVワクチンは、特にリスクが高いとされるタイプのHPV感染を予防するための効果的な方法なのです。しかし、日本ではヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの副作用に関する報道とそのための積極的接種勧奨差し控えの影響で接種率が極端に低くなり、いまだに年間約1万人の患者が発生し、3000人が亡くなっています。海外ではHPVワクチンの普及により、確実に子宮頸がんの患者数が減っており、日本でもHPVワクチンを積極的に接種していた世代において高度前がん病変が減少していたこと(Cancer Sci. 2019; 110: 3811-3820)が報告されています。
がんには予防しうるものと予防が難しいものがありますが、子宮頸がんは予防しうるがんなのです。9価HPVワクチンの接種を受けた人では、子宮頚がんの予防効果は80-90%です。男性が喫煙しないことで肺がんを予防する効果68%より高いのです。

3.     子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種後の重い副反応が回復しない確率は子宮頸がんにかかる確率の264分の1です。

HPVワクチンの副反応には、接種部位の痛みや腫れ、発熱、精神的不安で一時的に気分が悪くなる、血管迷走神経反射で失神することがあります。以前に採血や予防注射で失神したことがある人は注意した方が良いでしょう。また、重い副反応として、ショックやアナフィラキシー、ギランバレー症候群などが起こりえますが、頻度不明(0.1%未満よりも少ない)で、季節性インフルエンザワクチンと比較しても多いわけではありません。かつて一部報道で騒がれた運動障害、けいれん、全身の痛みなどの症状とワクチンとの関連を検討した結果、接種していない人にも接種した人と同様の頻度で見られることがわかり、HPVワクチンとの因果関係は示されませんでした(Papillomavirus Res. 2018; 5: 96-103)。
最後に、接種後副反応が心配で接種を迷われている方へお伝えしたいことがあります。
一生のうちに子宮頸がんになる人は1万人あたり132人です。女子校で35人を1クラスとした場合、2クラスに1人がかかるのです。子宮頸がんで亡くなる人は1万人あたり30人、9クラスに1人です。一方、HPVワクチン接種後に重い症状を認める人は1万人あたり約5人、57クラスに1人です。その症状が未回復の人は1万人あたり0.5人で、HPVワクチン接種後の重い副反応が回復しない確率は子宮頸がんにかかる確率のおよそ264分の1なのです。
もちろんワクチンは強制されるものではなく、子宮頸がんの発症を100%予防できるものではありません。しかし、娘さんが将来子宮頸がんにかからないという不確実な可能性にかけて接種しないよりも、接種してお子さんの将来に安心を届けてあげる方が良いのではありませんか。偏りのあると思われるメディア報道やSNSの情報に惑わされず、お子さんがこの先も安心して進める未来のために、積極的にワクチン接種をしてください。

近畿大学病院小児科思春期科は、接種後の副反応を生じた方を受け入れる協力機関です。近隣医療機関で接種後にお困りのことがあれば、まずは接種された医療機関へご相談ください。もし、対応できない症状などの場合、私たちの近大病院に受診していただく仕組みになっています。

杉本 圭相

参考資料:
1.     Suzuki S, Hosono A. No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res. 2018;5:96-103.
2.     Matsumoto K, Yaegashi N, Iwata T, et al. Reduction in HPV16/18 prevalence among young women with high-grade cervical lesions following the Japanese HPV vaccination program. Cancer Sci. 2019;110(12):3811-3820.
3.     ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~ 厚労省HP
4.     JAPAN PAF プロジェクトhttps://epi.ncc.go.jp/paf/index.html
5.     日本産婦人科学会 子宮頸がんとHPVワクチンに関する最新の知識と正しい理解のためにhttps://www.jsog.or.jp/uploads/files/jsogpolicy/HPV_Part1_4.pdf
6.     政府広報オンライン https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202306/1.html
7.     NHK健康チャンネルhttps://www.nhk.or.jp/kenko/atc_774.html

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